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最初に購入した写真集は、東松照明さんの「11時02分NAGASAKI」でした。正方形のしっかりした装幀の本で、当時、写真同人社という東京は麹町にあった小出版社から出たもので、私は予約して買いました。
2000円という価格は1967年にしては大変高価な本で、それでも自分の好きな画像を何時も手元に置いておけるという喜びは大変なものでした。
その後、写真集はかなり買い込みました。
有名な森山大道の「日本劇場写真帳」は今日では20万円という市価ですが、これが新品で鎌倉書房から出た時は800円。森山さんのデビュー作ですが、あまり売れなかったようで、数年後に本の小口に赤いマジックの線が引かれたゾッキ本として神保町の書店で2冊目を買った時には250円でした。
そのうち、洋書が欲しくなり、エルスケンの「スイートライフ」を注文して、銀座晴海通りのイエナ洋書店で買いました。ハードカバーの正方形な立派な写真集、これは6000円という高価な買い物でした。それを皮切りに、ホライゾンプレスの「コンテンポラリーフォトグラファーズ」も買いました。これは小型正方形の薄いハードカバーの本でした。
6名の写真家の作品が収録されていて、その中のリー・フリードランダーの作品が好きになり、その次ぎの作品集「セルフポートレート」これは版元に直接送金しました。
かなり時間が経過して送られた来た写真集の差出人の住所、それは版元の住所なのですが、ニューヨークシテイではなく、ニューシテイとありました。はてニューシテイとはどこであろうか、、、と思いました。
後年、リー・フリードランダー氏に欧州で会った時に、その出版社は彼の自宅であることが分かったのも、感慨深いものでした。
写真集に関しては先進国の欧米ですら、真面目な商業ベースに乗らない写真集は、フリードランダー氏のように、自分で出版しなくてはならないのです。
その次に購入したのは、ウイリアム・クラインの名作「ニューヨーク」でした。
もっともこの写真集はすでに名声を博していました。その発行から7−8年が経過してこれも銀座のイエナ洋書店で買ったのです。確か値段は3800円でこれはバーゲン品の記憶があります。
それから20年ほど経過して、そのクライン氏が展覧会で東京に来た時にパーテイ会場で、私は青年時代から持ち越しの写真集ニューヨークにサインしてもらいました。
クライン氏の書いてくれた文字は
TO CHOTOKU,,,HAPPY NEWYORK WILLIAM KLEIN
でした。
そのパーテイでは最初に私が購入した洋書の著者、すなわち「スイートライフ」のエルスケン氏も加わって、ライカ談義、カメラ談義になったのも、これは写真集を通じた人間関係で有り難いことです。
それがきっかけでクライン氏のプラハでの撮影では、撮影に同行するほどになりました。
カメラ雑誌は読み捨てにしてしまいますが、写真集はそうは行きません。
仕事に疲れた時にページをめくるのはなかなか楽しいものです。
お陰さまで、今回、私も10何冊目かの写真集を出すことができました。
「ウイーン・モノクローム・70s」は、東京キララ社という気鋭の小出版社が私の意気に呼応して出してくれたものです。
30年前のウイーンの自称散歩カメラマンチョートクの実体がどのようなものであったのかを、ここに証明することにもなりましたが、もう一つ、500ページに迫る写真集のページをめくっていると、今の70年代ブームの原点が各所に散見されることで、それは女性のファッションやら、男性のつけている時計やら、、、。
時代はインターネットになっても、紙に印刷されたメデイアの魅力は色あせないどころか、逆に精彩を放っているようです。
写真集の黒いダストカバーに銀の文字、それにその重さが良い感じであると言ってくれた人が居ます。
私はこの写真集を「紙で出来た70年代のウイーンのモノクロサイレント映画」だと思っているのです。
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