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ライカに始まりライカに終わる · 連載コラム(市川泰憲)

第五回「LEICA M8の効用」

コーナー名
ライカに始まりライカに終わる
著者
市川泰憲(写真技術研究家、日本カメラ博物館)
対象機材・テーマ
LEICA M8の効用
概要・導入
ブラックボディにはSchneider-Kreuzanx Arriflex-Cine-Xenon 50mmF2が、シルバーボディにはHector 13.5cmF4.5が装着されている 〔画像をクリックすると拡大して見ることができます〕 ライカM9がフルサイズで登場して、すっかりM8とM8.2(以下M8と略す)の影が薄くなってしまった。「ライカはやっぱりフルサイズ」と第一回目でうたってしまったのは、それなりの理由があったからだ。M型ライカの面白さは、レンズ交換できることであり、古いM型以前のスクリューマウントレンズもアダプターを介せば、何の加工もなく最新のボディにも使えることだ。 それならばM8も…

1. 歴史・機構・蘊蓄(エッセイ・解説)

【シルバーとブラックボディのライカM8】<br> ブラックボディにはSchneider-Kreuzanx Arriflex-Cine-Xenon 50mmF2が、シルバーボディにはHector 13.5cmF4.5が装着されている<br> 〔画像をクリックすると拡大して見ることができます〕
●ライカM8シリーズに後継はあるか

ライカM9がフルサイズで登場して、すっかりM8とM8.2(以下M8と略す)の影が薄くなってしまった。「ライカはやっぱりフルサイズ」と第一回目でうたってしまったのは、それなりの理由があったからだ。M型ライカの面白さは、レンズ交換できることであり、古いM型以前のスクリューマウントレンズもアダプターを介せば、何の加工もなく最新のボディにも使えることだ。
それならばM8も同じではないかということになるわけだが、ちょっと違う。そもそもフルサイズ24×36mmは、ライカ判ともいわれてきた。なんといってもフルサイズはライカが決めた画面サイズなのだ。それが、撮像素子のコストや製造技術の進歩過程によって、APS-Hの段階にとどまっていたのは、あくまでも仮の姿だったのだと考えるのが妥当だろう。
そもそも画面サイズというのが存在するのはフィルムカメラ時代の産物であって、デジタルの時代にあっては、原則的には撮像素子の大きさに依存してボディを考えればよいわけで、過去のフィルムカメラ時代の交換レンズシステムを引きずる(大切にする)場合にはフルサイズとなるわけだ。この結果、M型ライカとキヤノン、ニコン、ソニーなどの一眼レフカメラメーカーは、35mm判フルサイズにこだわらなくてはならないことになる。
この部分を切り捨ててしまうというか、もっていなかったメーカーは事情が異なってくる。そのためにAPS-Cフォーマット、フォーサーズ規格、マイクロフォーサーズ規格が新たにデジタルカメラ用として提案され、画面サイズが小さい分だけボディと交換レンズを小型化して新たなシステムカメラ作りを目指しているのが現在だ。ただし、フィルムカメラ時代からのレンズマウントを踏襲しているシステムでは、フルサイズカバーの交換レンズはAPS-Cサイズをカバーする互換性をもっている。
それでは、ライカもM8系列のAPS-H判を今後も出してくるかということだが、それはほとんどないと僕は見ている。その理由はM9の価格だ。ライカのフルサイズが登場するときは、100万円近くするのではというのが、見識者の見方であったが、蓋を開けてみると、M8.2の価格の横滑りになっていた。多くの予想を裏切ったことになるが、結果としてM型ライカのフルサイズM9は安かったことになる。
この安くなった理由はライカカメラ社のスタッフによると、多くの部品がM8から流用できたことにあるという。流用できたということは開発費が少なくすむということになり、結果として安くなるわけだ。僕の考えるところでは、M8のトップカバーにあったバッテリー容量表示と撮影可能枚数表示は省略され、M9では背面液晶の表示の中に含まれるようになったあたりは、合理化によりしっかりとコストダウンも図っているのだと思っている。

2. 操作方法・メンテナンス・修理のポイント

●M8を使い切る

こうなると、いまあるM8は使い切るしかない。それにはM8にマッチしたお気に入りのレンズを探すのが最も手っ取り早いことになる。

【シネ-クセノン50mmF2の描写】<br> ライカM9、絞りF2.8・1/1000秒、ISOオート、AWB。フルサイズのライカM9だと四隅が切られてしまうが、APS-HのライカM8なら切られることはない。描写の良さは納得いただけるだろう<br> 〔画像をクリックすると拡大して見ることができます〕
◇スナップカメラに特化させる

M型ライカは、スナップに、それも焦点距離35mmぐらいがいいと思っている人は、24mmか28mmのレンズをまず専用に用意すればいい。APS-H撮像板なので1.33倍をかけると24mmなら約32mm相当に、28mmなら約37mm相当の画角になる。細かいことをいってもしょうがない。デジタルだから撮影後に細かいフレーミングはその場で確認できるのだから大きな問題はないはずだ。しかも距離計は連動するのだから、マウントアダプターを使用した昨今の2倍掛けミラーレス一眼とは大違いで、すばやく撮影はできる。もともと焦点深度は焦点距離に依存するわけで、画角は1.33×掛けの焦点距離相当になっても焦点深度は変わらないのだから、スナップには適切なライカシステムということができる。
◇35mm映画用レンズを取り付ける
僕の知り合いには、35mm映画用のレンズを距離計連動のライカスクリューマウントに加工して、撮影を楽しんでいる人が何人かいる。35mm映画の画面サイズは18×24mmだが、レンズを吟味すれば、24×36mmのフルサイズをカバーする物もあれば、フルサイズにはわずかに足りないものもあるというわけでさまざまだ。もともと映画用レンズは高価であり、画質も素晴らしいのが多いので、うまく探し当てるのが楽しみとなっている。
加工は、工房(http://pwfukagawa.blog98.fc2.com/)を作り自らが旋盤を操ってというのだから、そのこだわり方は並ではない。もちろん、そのような加工を引き受けてくれる業者もあるが、あくまでも自分のものは自分で作るというわけで、商売ではないのでほかの人のレンズ加工は引き受けてくれない。ネット上に組織されていてメンバーは120人を超え、懇親会や撮影会を開いたり、映画用レンズを使ったスチル写真展を開催したりと活動はなかなか活発だ。

【ヘクトール13.5cm+ライカM9】<br> ライカM9、絞りF4.5・1/88.4秒、ISOオート、AWB、撮影距離1.5m。フルサイズならこれだけ入る<br> 〔画像をクリックすると拡大して見ることができます〕
◇望遠ヘクトール135mmF4.5

デジタルになってもうひとつおもしろいのが、デジタルに適したクラシックレンズはどれだろうかと探す楽しみだ。当初は、デジタルにはデジタル用のレンズをというのがひとつの考え方として示されたが、逆に古いレンズでもけっこう楽しめるということを示したのは、同じレンジファインダーカメラの「エプソンR-D1」だ。エプソンの発売は2004年、ライカM8の発売は2006年だから、その先駆けとして大きく評価されていい。フィルム時代の楽しみ方をそのままデジタルへ移行できたのも、ライカMマウントというかレンジファインダーライカならではだ。
さて、このエプソンR-D1の撮像板は1.5×のAPS-Cサイズだ、一方ライカM8はAPS-Hで1.33×掛けだ。つまり35mmレンズはエプソンR-D1では51mm相当、ライカM8では46mm相当の画角となる。いずれのボディもせっかくの広角レンズが標準レンズになってしまうことである。それならば、むしろ積極的に望遠系で使えば、それなりの望遠レンズとして使えることになる。例えば、レンジファインダーライカの最望遠レンズは焦点距離135mmだが、これをライカM8に使えば180mm相当、エプソンR-D1では202mm相当となる。

【ヘクトール13.5cm+ライカM8】<br> ライカM8、絞りF4.5・1/60秒、ISOオート、AWB、撮影距離1.5m、APS-Hだと切られてしまうが、画質は十分な性能をもっている。焦点距離180mm相当の画角というわけだ<br> 〔画像をクリックすると拡大して見ることができます〕

ここまでの話は、単に計算値としての焦点距離の話だが、実際この条件に合致するレンズとして「ヘクトール135mmF4.5」がある。実はこのヘクトール135mmはすこぶる写りがいい。この写りのよさを見つけたのは、当時エプソンR-D1の開発責任者であった枝常伊佐央さんだ。枝常さんは、R-D1を使いヘクトール135mmで撮ったポートレイト写真でR-D1のカタログを作ってしまったほどなのである。
それを聞いた、僕もライカM8で試してみたところびっくりするほどの高画質なのだ。まずは、フルサイズのM9で撮影した場合と、1.33×掛けのM8で撮影した場合の画角違いを見て、さらに画面をクリックしていただき、拡大されたヘクトール135mmF4.5の画質をご覧いただきたい。シャープさと滑らかさがみごとに両立している。ポートレイトはもちろんのこと万能レンズとして十分に使える。撮影はヘクトール135mmF4.5の三脚座に三脚を取り付け、撮影ごとにボディを交換する手法をとっている。
本当は枝常さんのように若い女性のポートレイトといきたいが、そこはコストというか僕の力のなさで、人形でご勘弁いただきたい。人形の高さはわずかに15.5cm、絞り値はF4.5開放、撮影距離は最短の1.5mである。ヘクトール135mmF4.5の登場は1933年、1960年のヘクトール135mmF4の登場までの27年もの長きにわたって発売されていたという歴史的事実からしても、いかに優秀であったかはおわかりいただけるだろう。
このヘクトール135mmF4.5には、もうひとつおまけがある。実はレンジファインダー機にとって望遠はまったく不人気なのだ。その不人気ゆえの結果、市場価格はかなりこなれている。かなり程度のいいもの(あまり使われていない?)でもわずかな金額で入手できるのも魅力だ。

●つぎはライカM9.2かM10か

こんなことを書き綴ってきたら、やはりあるところへ行き着いてしまった。もしもM型ライカが昨今のコンパクトカメラや一眼レフカメラのように“ライブビュー可能”だったらどうだろうということだ。元祖ライカ判、距離計付き元祖ミラーレス一眼、元祖マウントアダプター対応機なのである。これは考えてみただけでも楽しみである。そんな次世代モデルに淡い期待をもって、ライカM8を使い倒そう。