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ライカに始まりライカに終わる · 連載コラム(市川泰憲)

第四回「NOCTILUX-M 50mmF0.95ASPH.」を使ってみた

コーナー名
ライカに始まりライカに終わる
著者
市川泰憲(写真技術研究家、日本カメラ博物館)
対象機材・テーマ
NOCTILUX-M 50mmF0.95ASPH.
概要・導入
M型ライカ用の大口径50mm標準レンズであるノクチルックスは、1966年に世界初の非球面採用の写真撮影用レンズ“ノクチルックス50mmF1.2”として登場したのが最初。以後、1976年に球面の“50mmF1.0”となり、さらに1994年に50mmF1.0のままで改良型が発売され、それに引き続くのがの最新モデル「ノクチルックスM50mmF0.95ASPH.」となる。 この50mmF0.95という焦点距離・F値のレンズは、1961年にキヤノンがレンジファインダー機の7用に発売したことはご存じだろう。ほぼ50年後に発売されたノクチルックスの50mmF0.95、この間の光学技術の進歩を知るうえでも興味…

1. 歴史・機構・蘊蓄(エッセイ・解説)

●最も明るい写真レンズF0.95
【NOCTILUX-M 50mmF0.95ASPH.を装着した<br> ライカM9】<br> レンズ本体だけでも630gの重量がある。

M型ライカ用の大口径50mm標準レンズであるノクチルックスは、1966年に世界初の非球面採用の写真撮影用レンズ“ノクチルックス50mmF1.2”として登場したのが最初。以後、1976年に球面の“50mmF1.0”となり、さらに1994年に50mmF1.0のままで改良型が発売され、それに引き続くのがの最新モデル「ノクチルックスM50mmF0.95ASPH.」となる。
この50mmF0.95という焦点距離・F値のレンズは、1961年にキヤノンがレンジファインダー機の7用に発売したことはご存じだろう。ほぼ50年後に発売されたノクチルックスの50mmF0.95、この間の光学技術の進歩を知るうえでも興味深いものがある。なお、今回のノクチルックスM50mmF0.95ASPH.では、初代同様に非球面を採用して“非球面レンズ初採用のライカ”の面目躍如といったところだ。

●絞り開放F0.95の魅力

ライカカメラ社によると、F0.95という明るさが導き出す極めて浅い焦点深度により、他のレンズではまねできないポートレイトやデティールこだわった撮影が可能だという。また、第3世代ノクチルックスより、確実に口径食と歪曲収差が抑えられているという。そして絞り込んだときは、いままでのライカで製造された50mmレンズとしては最高の描写を示す1本だとアナウンスされている。
レンズ構成は5群8枚、一部に銀価格の2倍に相当する高屈折ガラスを採用し、いわゆる対称型のダブルガウスタイプで、2枚目前と最後面8枚目の後に非球面を採用し、さらに後群にフォーカスフローティングを採用し、近接時の描写特性を向上させているという。

【レンズ構成図】NOCTILUX-M 50mmF0.95ASPH.

2. 操作方法・メンテナンス・修理のポイント

●写してみたら

さて、実際どのくらいの写りを示すのだろうか。F0.95レンズならではの開放描写を中心にその結果をお知らせしよう。このレンズが発表され、発売されたときはライカM8、APS-Hの時期であり、画面サイズが小さかった。つまり50mmであっても、M8では66.5mmの焦点距離相当の画角でF0.95を楽しまなくてはならなかった。しかし、わずかな時間の差でM9が発売され、フルサイズ・ライカ判での撮影が可能となった。この違いは大きいと思う。画面周辺をカットしたM8のAPS-Hサイズでは、十分にレンズ性能を見ることはできなかったのだ。

【ポートレイト】ライカM9、絞り優先AE(F0.95)・1/707.2秒、撮影距離1m、AWB、ISOオート<br> 〔画像をクリックすると拡大して見ることができます〕

【ポートレイト】 撮影距離1m、絞りF0.95開放での描写である。ライカカメラ社のテクニカルデータによると、この絞りF0.95開放のときの焦点深度は20mmである。これを許容錯乱円を0.026mmとして自分で計算してみると、前側焦点深度9.3mm、後方焦点深度9.5mm、合計深度18.8mmとなる。この違いは許容錯乱円の取り方か、数値の丸め方によって異なるが、ほぼ同じと見てもいいだろう。したがって、鼻の先端にピントを合わせると、顔の表面、目にはピントはこないぐらいの微妙な深度となる。
写った結果もかなりそれに近いものがある。撮影時は、目のマツゲに合わせたつもりだが、必要十分なピント精度はでている。そしてわずかな厚み(深度)を持った合焦部はかなりシャープで、階調、色乗りともいい。一部にF0.95はピントが合わないということを聞くが、少なくともM9とノクチルックスM50mmF0.95ASPH.の関係では、だいたいねらった通りにピントはくる。ディストーションは画面左の柱の線からすると、わずかなマイナス(樽型)の歪曲を感じるが、たぶん前のタイプよりは少ないのだろう。画面、左上にはアサヒビールのポスターが貼られているが、それと知って見れば解読できるが、ここまで大きくぼけるとわかりにくい。さらに画面右下には、わずか背後にあるアウトフォーカスした人形の衣服のメタル状の飾りが輝いており、その部分を大きく拡大するとコマの発生が読みとれる。コマ収差の発生は点光源が軸外にあったとき、大口径ガウスタイプならではのもので、開放絞りでは避けがたいものとして存在するが、1~2絞りほど絞り込めばまったく消え去ってしまうというのが一般的である。総じて、ボケ具合は癖はないが、ふだんコンパクトデジタルカメラを使っているような方にとっては、驚くような大きなボケ描写だろう。

【ショーウインドー】ライカM9、絞り優先AE(F0.95)・1/106.8秒、撮影距離10m、AWB、ISOオート<br> 〔画像をクリックすると拡大して見ることができます〕

【ショーウインドー】 最初はF0.95の描写を無限遠でねらったらどうなるかと、銀座の夜景を撮影して歩いたが、面発光体の看板などではとくに問題なく良く写るのでつまらない結果となった。そこで、コマ収差が徹底的に発生する場所を求めて撮影したのが、ショーウインドーの作例である。絞り開放F0.95、撮影距離約8mである。フォーカスターゲットは、ズバリ画面中心少し右側のハンドバッグである。ガラス越し、さらに包装用ビニール袋に包まれているが、バッグ、取っ手の質感など素晴らしい。背後にある緑色の点光源は偏らずに真円に近く描写され、さらに目を左に転じてみると、ハンドバッグと同一平面上にあるクリスマスツリーのミラーボール近辺は周辺部描写特性の高さをうかがわせる。とはいっても、画面上部を見ていただきたい。やはり開放絞りのコマの発生は見逃せない。中心から左右にかけて点光源がチョウのように見える、きわめて教科書的な作例が撮れた。

【浅草寺・大提灯】ライカM9、絞り優先AE(F2.8)・1/2000秒、撮影距離5m、AWB、ISOオート<br> 〔画像をクリックすると拡大して見ることができます〕

【浅草寺・大提灯】 絞りF2.8にて撮影。提灯に白い網がかかっていたので、シャープさと質感の両方を見ることができた。絞り込むことにより、いままでの50mmライカレンズの中でも最高を示す1本だとは比較していないのでわからなかったが、十分にシャープさ、暗部の描写特性をも含めて満足できる結果だった。

●大口径と高感度を組み合わせる

ライカM9で設定可能なISO相当感度はISO80から最高で2500、これをISOオートセットにして、さらに手持ち限界シャッター速度の設定を1/30秒にして、最高シャッター速度1/4000秒まで。これに大口径のF0.95の絞り優先AEで撮影すると、かなりの場所で手持ち撮影が可能となる。もちろんF0.95という明るさだけではないが、最近のデジタルカメラではシャッター速度・絞りの可変に加えて、ISO感度のオートセットが入ってきていままでにない低輝度環境での撮影が可能となった。その方法は、暗いレンズでも可能なものだが、高感度とレンズ開放F値はどのように関係するかは大変興味深く面白い。ライカMデジタルでは、絞り優先AEにすることで低輝度側では、まずシャッター速度が1/30秒(任意に設定可能だが)を超えて長時間を必要とするときには、ISO感度が自動的に高感度側にシフトし、そのISO感度も高感度側の限界設定を2500でなく、やはり自分で決めることができるというわけで、おもしろい。明らかに写真の撮影領域は大幅に向上している。
高感度で大口径、正に現代だからこそ、そんな描写を楽しんでみたいものだ。