ライカに始まりライカに終わる · 連載コラム(市川泰憲)
第三回「LEICA X1を使ってみた」
1. 歴史・機構・蘊蓄(エッセイ・解説)

ライカカメラ社からAPS-CサイズのCMOSセンサーを搭載したコンパクトカメラ「ライカX1」が発売された。発表は2009年9月、発売は2010年1月を予定、うまくいけば2009年末にとされていたが、暮れも押し迫ったにギリギリに発売となったからおみごとである。
さてこのX1は、コンパクトデジタルカメラであるのに、すばらしくライカ的である。何がということになるが、まずカメラの梱包寸法が従来からのMシリーズの箱と大きさとほとんど変わらないことだ。ただ開梱の仕方は今までと異なり、上蓋を開けるような感じで開き、マグネットでロックされた蓋を外すとそのままの状態で前後と左右に倒れ、その中に3段重ねの箱が出てくる。一番上は、今まで同様のブルーグレイのカメラが入った箱だが、下2段は取っ手の付いた引き出しになっており、一番下には、ストラップ、バッテリー、充電器、USBケーブルなどアクセサリーが、下から2段目には取扱説明書、保証書など入っている。これ何だ?と少し考えてしまったが、そう、ちょうど風呂敷を開くと中から三段重ねのお重がでてくるといった感じである。そういう意味ではX1に関しては、きわめて日本古来の梱包方式だといえるかもしれない。
そんなことどうでもいいではないかといわれれば、それまでだが、実際X1の梱包を手渡されたときにはその大きさもさることながら、重さにもびっくりする。2,250gもあるのだ。これから、カメラ本体とバッテリー、レンズキャップの340gを除くと、約1,910gも周辺アクセサリーということになるが、一番重いのは取扱説明書だ。この豪華さ、重量をどう考えるかはそれぞれで、価格に見合うものと考えるのが一番いいかもしれない。
2. 操作方法・メンテナンス・修理のポイント
●最もライカ的なコンパクトカメラ

さて本題に入ろう。最もライカ的なのは、ボディ外観が手に持ったとたんライカ的だと感ずるところだ。基本的なボディラインが、円筒形のパイプを押しつぶしたようなライカの基本形であるバルナック型そのものなのである。手元にあるC型と比較すると、横幅でX1=124mm、C型=133mmなので約10mmコンパクト、厚みは30mmでどちらも同じとなる。フィルムカメラの時代を含めて過去にさかのぼると、最もライカ的なコンパクトカメラだ。逆にいえば、デジタルだからできたライカフォルムといえるだろう。
ボディはジュラルミンとアルミの成形品だということだが、金属そのものである。先程の梱包からボディを取り出したときには、恐ろしく軽いボディだと感じたが、カメラ本体だけをいじりまわしていると、いつの間にか寸法に見合う十分な重さを感じるから、人間の感覚は不思議なものだ。

モード設定のボタン、ダイヤル操作も特に難しくはなく、取扱説明書がなくても困ることはない。特にトップカバーの絞り数値の刻まれたダイヤルとシャッター速度の刻まれたダイヤル目盛りを“A”マークに合わせれば、プログラムAE、どちらかをAから外し数値セットすれば、絞り優先AEかシャッター速度優先AEになり、どちらもAから外せばマニュアル露出となるあたりは、表示もアナログそのものだし、直感的に理解しやすい。カメラを構えて、トップカバー左上の丸い部分を押し込むと、発光部も丸くなった円筒形のストロボがアップする。円筒形のバルナック型ボディに、円筒形ストロボ、デザイン的にもオリジナリティーを持たせるという意味でも、最もこだわった部分だと思う。
●コンパクトだけど高感度が得意
オートフォーカスは、1点、1点高速、11点、11点高速、スポットAF、顔認識と6種から選ぶことができる。1点と11点には高速というモードがある。どれを使うか迷うが高速のほうがいいだろうから、基本的には4種類から選ぶことになる。購入時の基本設定は“1点高速”である。スポットAFはかなり狭角だが、レンズの焦点距離、F値、カメラの特性からして、この“1点高速”モードにセットしておくのがベストだろう。
ISO感度は、オートのほか100・200・400・800・1600・3200のマニュアルが選択できる。ISOオートはISO100~3200の範囲で感度が自動変化する。最高感度設定はユーザーが任意に設定できるが、出荷時の最高感度設定は1600である。コンパクトデジタルカメラのISO感度にはなかなか難しいものがある。感度数値が振ってあるからといって、高感度にセットして撮影してみたらノイズだらけで使い物にならなかったということを良く聞く。これは実用的な感度範囲と数値の振ってある感度範囲とは別だということだ。そのような場合には、ISOオートにセットすれば、自分が画質的に許容できる設定範囲内で感度が自動的に可変する。したがって、X1の場合には初期設定のISO1600までが実用的に許容できる画質だと考えてよいはずだ。だからといって、常にISO1600にセットしておけばそれでいいのかというとそうではなく、やはり可変範囲内で低い感度で撮影したほうが高画質であることはいうまでもなく、ISOオートセットで使うのが得策だ。
このあたりの高感度が、小型撮像素子を使ったコンパクトカメラと大きく異なる点で、画素ピッチ約5.5μmでミドルクラス一眼レフに使われているAPS-Cサイズの撮像素子を使ったコンパクトカメラの大きな特徴のひとつである。
またISOオート設定のモード中では最長シャッター速度も選択制限できる。プログラムAEと絞り優先AEの場合に、最長シャッター速度を1/30秒、1/15秒、1/8秒と設定でき、絞りが開ききり、手ブレ限界シャッター速度に達すると感度が自動的にアップしていく。ISO感度、手ブレ限界シャッター速度の選択は個人の好み、高感度能力によっても異なるので、とりあえずは、安全を見込んで初期設定値1/30秒のままにしておくのがいいだろう。
●写してみたら
さて、今回は正月休暇中にX1を受け取ることができた。それだけにテスト撮影は明るい晴天下屋外から暗い屋外・室内まで思う存分にできた。すべてのモードを標準(初期設定)のままで写してみた結果は、発色も誇張なく、描写も必要以上にシャープをかけていなく軟調な感じで自然である。クローズアップして背後をぼかしてみると、レンズは24mmF2.8であるが、APS-Cでは36mm相当画角となり、大きくぼけて感じがいい。小型撮像素子を使ったコンパクトカメラではなかなか得られない、APS-Cならではの大型撮像素子を使った結果のボケ描写特性だ。プリントしてみるとコンパクトカメラとしては十分な画質。1200万画素は、全紙大に伸ばしてもまったく問題ないデータ量だ。
ただ少しだけ欲をいわせていただくと、X1はマクロ域に設定すると30cmまでのクローズアップができる。この30cmは、いま少し物足りない。料理を撮るなら大皿はOKでも、小皿には不満足だ。同様に小さい花の接写ももう一息欲しいところだ。
●ライカとしてのこだわり

最後にもう少し、こだわりについて。X1のライカとしてのこだわりはシャッター音だ。なんでもM3の1/60秒の音をサンプリングしたという。さらに1/4秒以長のスロースピードは、先幕走行に続き後幕走行の感じまで再現しているというのだ。改めてM3を引っ張り出して聞き比べてみたが、似ているといえば似ている。どうりでシャッターを切る感じが心地よいのは、このあたりのおかげかもしれない。さらに付け加えるなら、X1にはデジタルズームはなく、画面縦横比も3:2しかない。デジタルだから何でもできるはずだが、35mm相当単焦点レンズでライカ判アスペクト比、あくまでもレンジファインダーライカのイメージを大切にしたのかもしれない。設計者のライカとしてのこだわりを感じさせるカメラだ。
ライカX1は、昨今のデジタル時代にあって、M型を除けば、持った感じが最もライカらしいカメラだ。そしてなによりも“ライカ”であること。そのあたりを受け入れられるかどうかが、このカメラへの最大に評価になる。
