ライカに始まりライカに終わる · 連載コラム(市川泰憲)
第四十回「シグマsdクアトロを使ってみました」
1. 歴史・機構・蘊蓄(エッセイ・解説)

シグマの独自イメージセンサーであるフォビオンを使ったレンズ交換式ミラーレス一眼「SIGMA sd Quattro」【写真1】が発売されました。このカメラ、僕的には、この時期一番注目度の高いカメラでした。その注目する部分は、フォビオンセンサーのもつ独特な高画質にあるわけですが、高画質ゆえの問題をクリアしたのがミラーレス一眼なのです。シグマの一眼レフは、フィルム時代の“シグマsa-1(1983)”、デジタル時代には“シグマSD9(2002)”に始まり2010年の“SD15”まで、数々のモデルを脈々と作り続けてきたのです。そして今回のミラーレス機“sdクアトロ”の登場です。
ところで高画質ゆえの問題点とは、どのようなことなのでしょうか。これはデジタルの一眼レフ全般にいえることですが、いわゆるミラーのUp・Down、シャッター幕の走行によるブレの発生、ファインダー焦点面と撮像面との整合性などが、高画素(高画質)時代になってシビアになり目につくようになってきたのです。これに対する1つの答えがミラーレス(ノンレフレックス)だったのです。もちろん、一眼レフとミラーレスには現状ではそれぞれに利害得失があることも事実ですが、ここでそれを論じるのは目的とするところではありませんので、やめときます。
シグマsdクアトロが2016年2月に公開された時に、レンズマウントはAF対応としたSA-300(1993)以来の 完全電子マウントの“シグマSAバヨネットマウント”(フランジバック44mm)で、イメージセンサーサイズがAPS-CとAPS-Hの2種類が発表されたのです。それ以前のシグマはフォビオン・クアトロセンサーを使った機種は、dp0クアトロ(21mm相当)、dp1クアトロ(28mm相当)、dp2クアトロ(45mm相当)、dp3クアトロ(75mm相当)と単焦点の固定レンズでラインナップしていましたが、独自のボディフォルムは中判カメラに相当するもので、焦点距離を変えて撮影することには、予め機種を絞るか、全機種を持ち運ばなくてはならないためにそれなりの覚悟と体力と労力が必要でした。当然クアトロセンサー搭載の次なる商品開発は、焦点距離を変えられるズームレンズ装着かレンズ交換式であることしか選択肢がなかったのです。CP+2014における山木和人社長によるdpクアトロの技術解説においては、高画素機における一眼レフのもつ難しさも述べられていましたから、レンズ交換式はミラーレス一眼でしかなかったのです。

そしてミラーレスで“sdクアトロ(35mm判1.5倍相当)”、“sdクアトロH(35mm判1.3倍相当)”が発表されたときに、多くのユーザーはミラーレスでフランジバック44mmはないだろうと嘆きましたが、そこは考えようで、SAバヨネットマウントを採用することにより1993年のSA-300以来のユーザーに対して1つ筋を通したことになるのです。もちろん、マウントアダプターを用意してというような技術的な解決方法もあったのでしょうが、世間で流行っているクラシックレンズ遊びのような他社レンズを装着することは他社に任せて、あくまでも自社の専用レンズを使ってもらうという、交換レンズメーカーとしての強い企業理念がそこにはあったのではないかと思うわけです。【写真2】には、レンズを取り外したSD9とsdクアトロを示しました。ミラーレスとは一眼レフのミラーとプリズムがなく、ピント合わせはEVFで行いますが、シグマの場合には、同じフランジバックで、同じマウントで、一眼レフからミラーレスへとレンズ交換式カメラをシステム変更したのです。
結果として、価格はオープンプライスですが、ボディのみ約8万9000円、30mm F1.4 DC HSM Artとのセットで約12万3000円と破格の戦略的価格がでているのです。この値段は、従来からのシグマSDカメラユーザーにとっては驚きであり、dpクアトロシリーズユーザーにとっては横滑りの価格帯であるために、少なくてもシグマユーザーには抵抗なく受け入れられるのだろうと考えるのです。さらにこの価格帯は、従来他社製品を使っている人にとっても、この値段ならサブ機として持ってもよいのではと思わせる誘惑的な価格設定であるのです。なおフォビオン・クアトロセンサー技術の詳細については、本シリーズ『第二十五回、シグマdp2クアトロ』の項をご覧ください。
■レンズ固定dpクアトロからレンズ交換式sdクアトロへ
今回、使ってみるにあたり、どのようにsdシステムを組み上げるか考えました。まずは最初にAPS-Cモデル(23.4×15.5mm、約2,950万画素)か、APS-Hモデル(26.7×17.9mm、約3,860万画素)のどちらかを選ぶかとなるのですが、APS-Cはこの時期発売されましたが、APS-Hは12月の年末だというのです。もちろん気持ちのうえでは、大面積多画素のAPS-Hモデルを選択したくなるのですが、発売が12月ごろと予告されていますので、それまでオアズケというのもつらいことです。そこで見方を変えてみると、実は垂直記録のフォビオンセンサーはセンサーサイズ、画素数を超えたところで高画質なのです。そこがバイヤー方式の撮像素子とフォビオンの最も異なる特徴なのです。つまり、APS-Cでも十分にそれ以上のサイズのバイヤー方式の撮像素子と互角か、それ以上の画質が得られるというのが、いままで得てきたフォビオンの画質に対する印象なのです。

そこでまずは30mm F1.4 DC HSM Artレンズとボディのセットを考えてみたのですが、単焦点だと30mmF2.8のついたdp2クアトロの、F2.8とF1.4と最大口径比の違いはわかるけれど、大口径でありながら焦点距離を手軽に変えられるということから、18~35mmF1.8DC HSM Artを選びました【図1】。このレンズは、35mm判換算で27~52.5mm相当の約1.9倍ズームで、全焦点域を開放F1.8、最短撮影距離28cmという仕様をもっています。つまりズームで焦点距離を可変しても、開放値はコンスタントF1.8という大口径を生かして撮影してsdクアトロは生きてくるのだと考えたのです。ということでこのsdクアトロの交換レンズを決めましたが、まず手に持って最初に感じたのは、しっかりと大きく重量もあるのです。もともとフォビオンセンサーのクアトロを使うのには、中判カメラ並みの画質が得られる反面、それなりの大きさを覚悟しなくてはならないと「dpクアトロ」の時に書きましたが、sdクアトロでは、交換レンズの選択にもよるでしょうが、ある程度の重さも覚悟した方がいいのです。これは、ボディと交換レンズの金属化率が高く、質実剛健に作られているためで、このあたりをよしとするか、しないかは、購入する人の考えに大きく依存するのです。小型・軽量をお望みの方は30mm F1.4 DC HSM Artの組み合わせでとなります。
それでは、sdクアトロの使用感を18~35mmF1.8DCレンズとのその適正を配慮したうえで、いつものように定まった場所と、必要に応じてさまざまな場面での撮影結果を紹介しましょう。

■使ってみたら
操作にあたっては、ボディマウントのエプロン上部に電源スイッチが設けられています【写真3】。初めはなれないので戸惑いますが、使いなれれば目視・操作的にも合理的な位置だと思いました。そしてシグマとしては本機で初めて採用されたEVFは、背面液晶との自動・手動切り替えが選択可能ですが、この状態が目で簡単に認識できるのもいいところです。そしてEVFには視度補正ダイヤルがわかりやすくついているのも好感がもてます。ただし撮影にあたりEVFを覗いてみると、被写体によってはモアレが発生しやすいのです。ファインダーは写真を撮影するときの入り口となるわけですから、気持ちよく撮影するためには、さらなる向上を望むところです。
それでは、実写結果を報告しましょう。
●作例1:いつもの英国大使館正面玄関前
いつもの場所で、いつもの時間帯での撮影です。この日は、まだ梅雨明け宣言はされていませんが、前日までの雨も上がり青空がでましたが、いわゆる紺碧の空というわけにはいきませんでした。これは天候や露出レベルにもよる部分が大きいかと思いますが、その後撮り進んでいくなかでも、青空再現の感じは薄いなという印象です。撮影にあたっては、焦点距離20mmに、絞りはF5.6セットしました。焦点距離20mmは35mm判換算で30mm相当の画角となります。絞りF5.6セットは、このシーンを撮影するときにレンズ性能が十分に立ち上がっているだろうと考える絞り値で、いつも同じようにと僕が決めている設定です。ピントはカメラのAFによりますが、建物屋根中央下の紋章に狙いを定めています。
撮影結果ですが、まず中央の紋章の部分を画素等倍まで拡大してご覧ください。実にしっかりと描写しています。このあたりは、他のカメラでも毎回、同じ場面を掲載しているので比較してご覧ください。このレベルの描写は一部の高画素タイプかフォビオンセンサーならではのものです。もちろん描写は、撮像素子だけで成立するものではありません。高画素、高画質に見合う光学性能をもったレンズでなくてはなりません。そこで画面全体を見渡すと、左右に樹木の部分に画像が流れた部分を確認できます。18~35mmF1.8DCレンズは、APS-C判専用のレンズとしては開放絞り値全焦点域F1.8と極端に明るいレンズなのです。その結果からでしょうが、このような描写特性になるのでしょうか。ただしレンズというのは、これだけでレンズの性能判断下すことはできません。これから紹介する作例のなかで、さまざまなシーンでの描写も参考にしてください。
≪撮影データ≫焦点距離20mm(30mm)、絞り優先AE、F5.6・1/500秒、ISO AUTO 100、AWB、三脚使用
●作例2:いつものマンションの壁面
いつものマンションの壁面ですが、ずばり一気に画素等倍にして壁面を見ると、レンガ状の表面がごつごつしてその輪郭もしっかりと見えます。この画素等倍にした時の質感というか解像感はまさにフォビオンセンサーならではのものです。この画面で少し気になるのは、左のビルの窓枠の部分に倍率の色収差による影響がかすかに見えることです。3,860万画素の画素等倍ですから、プリント作成には非現実的な大きさであることは、まちがいありませんが、気になる場合にはレタッチソフトで消すことも可能です。ただ、このあたりの収差の発生は一般的にはレンズの特性そのものと考えてよいと思うのですが、ひょっとしたらフォビオンセンサーならではのシビアな問題なのか、いずれ時間ができたら、同じ光学系で他社カメラマウント(バイヤー方式のCMOS)の18~35mmF1.8DCレンズを使って確認したいです。
≪撮影データ≫焦点距離16mm(24mm)、プログラムAE、F6.3・1/400秒、ISO AUTO 100、AWB
2. 操作方法・メンテナンス・修理のポイント
■作例3:いつもの場所で、八国山遠望 その1
すっかりこのシーンもお決まりの撮影場所となりました。ここで見るのは、無限遠にある森の木々の葉から読み取る解像性能です。この撮影結果を画素等倍にしてみると、画面中心を含め、全体の3/5ぐらいの描写は文句なくシャープで解像感ある画像として仕上がっていまが、やはり周辺画像にはわずかに流れを見つけることができます。焦点距離をレンズに刻まれている18-20-24-28-35mmと変化させてみると、28mm(42mm)あたりで流れは消えます。いずれにしても画素等倍という非現実的拡大率での画質評価ですので、この辺の見極めは、ユーザーがどのような大きさを必要とするかで変わってくるでしょう。
≪撮影データ≫焦点距離16mm(24mm)、プログラムAE、F6.3・1/400秒、ISO AUTO 100、AWB、三脚使用
■作例4:ポートレイト(1) 女性
女性ポートレイトを、シャープに写るフォビオンセンサーのカメラで撮ることはなかなか難しいのです。そこでいろいろ予備知識を得た結果、まずは発色を“ポートレイト(PORT)モード”に設定しましました。このモードでは、肌が若干赤みを増すのと軟調に描写されるというのです。さらに軽快にシャッターが切れるようにと、コンティニュアスAFモードにして、連写モードで撮影しました。
レンズの絞り値はあえて開放のF1.8ですが、結果はご覧のとおりです。画素等倍に拡大してモデルさんのまつ毛、目にかかった髪の毛をご覧になるとおわかりなるかと思いますが、その解像性能は素晴らしいです。川越の菓子屋横丁での撮影ですが、撮影環境としてはあまりよくなく、モデルさんの顔に西日が差しこんでいて、顔の上でまだらな陰影を作り出していましたが、直接肌に射し込んだ部分でも飛ぶことはなく描写されています。この描写は、フォビオンの特性であることは間違いないのですが、絞り開放F1.8でも十分な解像性能をもったレンズによる部分も大きいのです。撮影は絞り開放でしたから、F1.8という大口径ズームのもつ絞り開放のボケ具合も見てほしい部分です。
≪撮影データ≫焦点距離35mm(52.5mm)、絞り優先AE、F1.8・1/320秒、ISO AUTO 100、PORTモード、AWB
■作例5:ポートレイト(2) 男性
こちらは写真家の水谷充さんです。水谷さんの「Nude Works」という個展にお伺いした時に男性ポートレイトのつもりで撮影させてもらいました。女性の場合と異なり、男性の場合にはしっかりと微細に写ることも許されるのだと思うのです。この写真を見てどなたかがかっこよく撮れているといいましたが、水谷さんにわけを話したら、じゃあといってご自身でイスに座りポーズをとってくれたのです。撮り上手の方は、撮られ上手でもあるのですね。
撮影は室内ですのでストロボを使うのもよいでしょうが、感度100ではありますが、ズームレンズとしては異端のF1.8と大口径ですのでブレなく、人物の細部のシャープな描写が得られました。その反面アウトフォーカス部のボケがどのように描写されたか、背景の額装されたヌード写真を見てほしいのです。ご覧のようにかなり大きくボケていますが、元の形態を崩すことのない自然でとろけるようなボケ方です。
≪撮影データ≫焦点距離35mm(52.5mm)、絞り優先AE、F1.8・1/80秒、ISO AUTO 100、+0.7EV、STDモード、AWB
■作例6:日章旗
特に日章旗に意味があるのではなく、いままで少ないながらもフォビオンセンサーのカメラで撮影してきて妙に質感描写がいいのはこのような旗なのです。旧豊多摩監獄正門のある法務局の屋上にあったので、ほどほどの青空でしたが、これだとばかりにシャッターを切りました。それで何がということになりますが、旗の布地の部分、金属のポールの部分、揚げ下げするためのひもの部分を、まずは画素等倍にしてみてください。すべての質感描写が素晴らしいのはおわかりいただけると思います。
≪撮影データ≫焦点距離35mm(52.5mm)、プログラムAE、F5・1/500秒、ISO AUTO 100、-0.3EV補正、AWB
■作例7:パラグアイ共和国の旗
千代田区の半蔵門にあるパラグアイ共和国大使館正面玄関わきの旗です。作例6の日章旗と同じで、旗、ひも、ポール、さらに背後のレンガなど、等倍に拡大して見ると、その質感の力強さがおわかりいただけるでしょう。つまり前掲の日章旗の例だけでなく、フォビオンセンサーはこういう素材というか場面の描写が得意なのです。画質としては、長焦点側にズーミングしているので、「八国山遠望」のようにワイド単ではないために周辺までしっかりと解像しています。
≪撮影データ≫焦点距離31mm(46.5mm)、プログラムAE、F5・1/400秒、ISO AUTO 100、AWB
■作例8:旧豊多摩監獄正門
東京中野区にある旧豊多摩監獄(中野刑務所)の正面玄関です。建築家・後藤慶二の設計で1915(大正4)年に竣工され、当時は赤レンガ造りのモダンな建物として知られました。現在、正門だけが法務局の敷地内に残されています。ここで見てもらいたいのは、赤レンガとその目地に使われたコンクリート、さらにかつては紋章がはめ込まれていたのだろうと思われる中央のコンクリートなどそれぞれの質感です。PCのモニター画面に合わせた大きさでなく、画素等倍にしてみるとその高画質がよくわかります。
≪撮影データ≫焦点距離18mm(27mm)、プログラムAE、F6.3・1/400秒、ISO AUTO 100、AWB
■作例9:石膏像のある家
前掲の旧豊玉監獄を後にして、JR中野駅に向かっている途中で、石膏像がある家を見つけました。本来ならアトリエや展示会場に置かれるものだと思うのですが、道路に面した建物前の片隅に存在するのが面白いのでシャッターを切りました。ピントはズバリ、石膏像に合わせてあります。画像としては特に変わったことはなく、ふつうに描写されていますが、日陰での撮影ということも手伝ってか、画素等倍に拡大してみるとシャドー部にはざらついた感じがありますが、実用上はまったく問題ないでしょう。
≪撮影データ≫焦点距離35mm(52.5mm)、プログラムAE、F4.5・1/320秒、ISO AUTO 100、AWB
■作例10:花とミツバチ
白いムクゲの花が咲いていたので、のぞいてみると1匹のミツバチが花粉にまみれて蜜を採取中だったので、とっさにシャッターを切った1枚です。この花を画素等倍に拡大して見てください。中心にいるミツバチの羽根、体毛、花粉など、画素等倍でここまで解像するのは、まさにフォビオンセンサーならではの描写です。
≪撮影データ≫焦点距離35mm(52.5mm)、絞り優先AE、F4・1/1600秒、ISO AUTO 100、AWB
■作例11:ひまわり
季節柄、もう少しフォビオンの緻密な解像感を見せるのには、どのような被写体を選べばよいのか悩むところでした。そこで考えたのが、ひまわりの花ならどうだろうとなりました。さっそくひまわり畑に出向いて撮影しましたが、青空に黄色のひまわりとは大変素晴らしく、コントラストのある色調に仕上げたく、” ビビッド(VIVID)”という鮮やかなモードに設定しました。18~35mmF1.8DCの最短撮影距離は全焦点域28cmなので、長焦点側35mmではマクロ的な撮影ができ、撮影倍率も高いので分解能の高い撮影ができます。その再現特性は、ここで繰り返して高解像を述べるまでもなく、まずは画面上で画素等倍まで拡大して、ひまわりの花の中央部分から上部に向けて子細に観察すると、その力強さがわかると思います。
≪撮影データ≫焦点距離35mm(52.5mm)、絞り優先AE、F2.8・1/4000秒、AUTO ISO100、VIVIDモード、AWB
■作例12:ハスの花
公園のハス池に咲いていた1輪を縦位置でねらいました。ピントはハスの花のしべに合わせてありますが、合焦部は解像感あるシャープ感な描写ですが、画面全体としてはレンズのボケ味も手伝ってか、クセなく柔らかく描写されました。色調はスタンダードにセットしましたが、葉の緑も含め全体に色鮮やかすぎるということもなく、特に雌しべの額の表面は落ち着いた色調のなかにも繊細に再現されています。葉の繊毛、葉に乗った細かな水玉など、画素等倍にして見るとその解像性能がわかります。
≪撮影データ≫焦点距離35mm(52.5mm)、プログラムAE、F4.5・1/320秒、ISO AUTO 100、AWB
■作例13:黄色い花と電車
近所の公園にカメラを持って行く途中に黄色のカンナの花が線路沿いに満開でしたので、黄色の西武線がくるのを待って花と電車を合わせてシャッターを切りました。このような場合どのようなモードで撮影すればよいかと考えた結果、ピントはカンナ花の中央部分に合わせ、シャッターを連写モードにセットして、電車が深度内に入るのを見てシャッターを押し続けたなかの1枚です。つまり事実上、置きピン状態での連写ということになります。もしこの場をシングルの1枚撮りで追いかけていたら、たぶんタイミングはもっとずれていたでしょう。なお連写はバッファーメモリーの関係からか最大12コマまでですが、ファインダー内には可能枚数が9コマまで表示されます。
≪撮影データ≫焦点距離35mm(52.5mm)、プログラムAE、連写モード、F5.6・1/500秒、ISO AUTO 100、AWB
■作例14:鯛の形をした厄除け
川越の菓子屋横丁で見つけた風鈴のようなタイの形をしたハリボテの厄除けです。本当はちゃんとした名前があるのでしょうがご勘弁ください。絞り開放F1.8での撮影ですが、ポートレイト撮影の合間に撮りましたので、ポートレイトモードのままになっています。このカットからわかることは、絞り開放ということもありますが、かなり柔らかい調子で撮れています。
≪撮影データ≫焦点距離35mm(52.5mm)、絞り優先AE、F1.8・1/125秒、ISO AUTO 100、PORTモード、AWB
■作例15:オブジェ
千鳥ヶ淵公園にある青緑にペイントされた金属製のオブジェです。特に気に入ったカットではないのですが、大きく拡大すると、オブジェの左脚部のあたりに跳ね上がった小さなゴミが細密に描写されているのです。ここが、このカットの面白さです。なお、左右の樹木の葉を見ると大きな流れもなく、色収差の発生も目立ちません。最広角が16mmなので、18mmという焦点距離は、大きく変わる部分ではなく、撮影距離に依存することもあるのでしょうか。
≪撮影データ≫焦点距離18mm(27mm)、プログラムAE、F5.6・1/250秒、ISO AUTO 100、AWB
■作例16:バックのボケ具合をチェック(クローバーの花)
画面の平坦性を見るために最近のカメラ(レンズ)チェックでは欠かしたことがないシーンです。一番手前の部分にピントを合わせて、背景のボケ具合を見ます。レンズは基本的に球面であるために、ボケの部分は周辺で同心円状に円弧を描くのが一般的です。その点において18~35mmF1.8DCも同じであって例外ではありません。ただ、ズームレンズという特性もあり、大口径でも極端な口径食のようなボケは見られませんが、画素等倍でみると、画面上部左右のクローバーの白い花のボケた部分が、ドーナツ状の球形に見えるのは球面収差の補正過剰の感じもありますが、いずれにしても18mmという最広角域で絞り値F1.8開放、近接撮影という条件で、画素等倍という一般プリントではありえない拡大率ですので、実用上はほとんど気にする必要はないと思うわけです。
≪撮影データ≫焦点距離18mm(27mm)、絞り優先AE、F1.8・1/2000秒、ISO AUTO 100、AWB
■作例17:モアレ発生のチェック(国宝正福寺のお堂)
久しぶりにこのお堂にやってきました。フォビオンは、バイヤー配列などのカラーフィルターを使っていないので、モアレが発生しにくいという特徴をもっています。そこで、正福寺の屋根を撮影するとほとんどのデジタルカメラではモアレが発生するのですが、sdクアトロではどうだろうかということです。屋根自体は、遠くから見るとわかりませんが、薄い杉板を重ね合わせているのです。その重ね合わせの縞目模様がモアレとして見えてくるのです。画素等倍に拡大して観察すると、結果はご覧のとおりですが、モアレの発生はまったく認められません。他機種のモアレ発生具合は、本シリーズの第二十一回「光学ローパスフィルターのありとなし」をご覧ください。
≪撮影データ≫焦点距離23mm(34.5mm)、絞り優先AE、F5.6・1/125秒、ISO AUTO 100、AWB

■作例18:新機能SFDモードを試す(八国山遠望 その2)
Sdクアトロの新しい機能としてSFD(スーパー・ファイン・ディテール)モードが加わりました。これは読んで字のごとくで、ダイナミックレンジが広くノイズを抑えたディテールの繊細な写真が撮影できるというモードです。このSFDモードにセットしてシャッターを切ると自動的に露出がオーバーからアンダーまで変わった7枚の撮影が行われます。これは、本シリーズ第三十一回に掲載したペンタックスK-3 IIの「リアル・レゾリューション・システム」に近似したものと考えられますが、ペンタックスが1画素の中で部妙に動かし4回撮影するのに対し、シグマsdクアトロでは絞り固定で撮影時のシャッター速度を可変して、適正に加え、オーバー・アンダー各3カットずつの合計7カット撮影し、合成して1枚の階調豊かなデータを作り上げるというのです。さっそく八国山遠望の場面で試したのがこのカットです。同じようにオリンパスのOM-D E-M5 MarkIIの「ハイレゾショット」(8回シャッター合成、第二十八回掲載)は画素数を1,600万から4,000万に画素を増やすという方式でした。これらオリンパスもペンタックスも、そしてシグマも複数回シャッターを切るために、動体の撮影は不可なのですが、あえてシグマSFDモードで風景ならどうだろうと試したのがこのカットです。結論からいうとやはり風景写真には不向きです。画素等倍にして右上の樹木と空の境界のあたりを見るとブロック状の白い線が見えます。当日は、風は無風に近かったですが、やはり木の上の方の葉は動いていたわけです。樹木のない環境で、建築物などを被写体にするとSFDモードは活用できそうですが、基本的には商品など静止物での撮影に効果を発揮するのでしょう。
なおSFDモードの合成した画像は、カメラ側のモニターで見ることはできなく、「.X31」というファイルができ、専用現像ソフトのシグマ・フォトプロで合成して可視化できるファイルに変換できます。
≪撮影データ≫焦点距離16mm(24mm)、絞り優先AE、F8、シャッター不明、ISO AUTO 100、AWB、三脚使用

■作例19:古いシグマ17-35mmF2.8-4 EX DGレンズで撮影
シグマ初のフォビオンセンサーを使用した一眼レフSD9が発売されたのは2002年、この年はデジタルカメラの生産が金額・数量ともにフィルムカメラを上回った年でもあり、まさに21世紀デジタル時代到来のタイミングでした。そしてSD9ボディと同時に購入したのが“シグマ17~35mmF2.8-4 EX DG”【写真4】です。この時期sdクアトロ用の18~35mmF1.8DCはAPS-C判・最大口径比1:1.8・金属鏡胴・重さ810gですが、17~35mmF2.8-4 EX DGはフルサイズ・最大口径比1:2.8-4・エンジニアプラスチック鏡胴・重さ432gと違いがあります。このなかで最大の違いは、18~35mmF1.8DCはズームレンズとして全焦点域でF1.8と明るいことです。もちろん焦点距離、画像サイズの違いはあるにしても、この大口径ズームにはレンズ技術の進歩を感じます。
シグマのホームページを見ると、過去のシグママウントレンズとsdクアトロの適合性がリスト化されているのですが、このレンズに関してはMF使用が推奨されています。とはいってもシグマ純正で、マウントは同じわけですからAFも使えるかどうかが気になり、sdクアトロに装着してみました。合焦にはジィー・ジィー・ジィーと数回行ったりきたりしますが、最終的には合焦マークが点灯し撮影可能となりました。14年前のレンズですから、おみごとといえますが、自社のレンズですから、あたりまえといえばそれまでです。
それでは、さっそく撮影結果をご覧ください。たまたまその日は、日大の江古田校舎へ行く用事がありましたので、お決まりの正門前で撮影しました。まずは入校するときの14:00ごろ、引き続き退校するときの16:00ごろと2回にわたり撮影しましたが、ここに掲載分は16:00ごろ撮影のカットです。なぜ遅い時間のカットを採用したかということになりますが、画面内人間の配置と、全体に夕方が近いためにか赤みがかった発色がよかったからです。画質としてはフルサイズをAPS-Cで撮ったということで、レンズの中心に近い良像部を使ったので、まずまずという描写になりました。画素等倍に拡大すると、左右の樹木にきわめてわずかに色収差の発生が認められますが、製造年代、発生量の少なさからすると優秀といえるでしょう。なお、このレンズをプログラムAEで撮影した時の絞り値がF10となりましたが、高輝度でも最近のデジタル対応のレンズにはないF10という絞り込が行われたので、プログラム露出に関する信号がレンズ側から、それもフィルム時代のプログラム信号がだされたのではないかと思うのです。(こういう推測というか、勝手な分析は楽しい作業です)
≪撮影データ≫焦点距離23mm(34.5mm)、AF撮影、プログラムAE、F10・1/320秒、ISO AUTO100、AWB
●まだこれからだけど、魅力は大
今回の使用で一番感じたのは、撮影した画像の階調再現が、今まではシャープな感じが強いという印象がありましたが、sdクアトロでは全体的に調子が柔らかくなったことです。僕自身の撮影法は、基本的にはカメラだしのJPEGファイルですが、このほうがさまざまな要素が動かなく、メーカー側の画づくりに対する姿勢を知れるのです。
さて2016年の2月に発表されたシグマsdクアトロシリーズは、予定通りにこの7月にAPS-C判から発売されました。今回、発売と同時に使ってみて、フォビオンセンサーを使ったミラーレスカメラの楽しさ知ると同時に、難しさの一端をユーザーとして知ることになりました。その難しさとはどんなものか、sdクアトロカメラに興味ある人の正しい理解の一助になればと、あえてここに書きだしてみました。
まず笑い話を。僕の周りには写真を生業としている人や、かなり高度なアマチュアさんがたくさんいますが、昨年「dp2クアトロ」が発売されたときに、Tさんは早速購入し、開梱したらすぐに感度をISO6400にセットして夜の抗議デモを撮影に行ったのです。結果は、さんざんで、写った画像には大きな横縞がでて使えなかったとボヤいていたのです。もうひとりはHさん、こちらは「dp1クアトロ」を手にしたとたんに、夜景、それも風景写真を撮りに行ったのです。どちらも共通していることは、思ったようなベストの画像が得られなかったのは当然なのです。それを聞いたとき、「デジタルカメラ=高感度」というイメージが最近できあがっているのだなということでした。それぞれご当人たちに話を聞いたときに、「ええっ、フォビオンはISO感度100セットで、それも十分に明るい太陽の下での撮影が最も良い結果が得られるのに」と話しました。もともと僕の作例写真は、どのようなカメラ、レンズであっても天候のよい時を撮影のタイミングとしているのですが、フォビオンセンサーのカメラを使うときは、特にその点に注意しています。もちろんこれは、僕個人の考えであって、dpメリル、dpクアトロ1と使ってきた知人のSさんは、雨の日のほうが渋い発色のフォビオンの特徴を出しやすいというのです。このあたりは、ユーザーの考える表現の部分がそれぞれであることは間違いないと思うのですが、“低感度設定で光あふれるシーンで”というのが僕のおススメなのです。
冒頭にも書きましたが、フォビオンセンサーは、APS-Cでもフルサイズを上回る解像特性をもつというのは、実写作例をご覧いただければおわかりいただけたでしょう。これは、単なる数値上のピクセル数だけではないことを意味するわけで、このあたりが1画素に対して垂直記録方式をとるフォビオンセンサーならではの最大の特徴だと思うのです。
そして、今回sdクアトロで、フォビオン・クアトロセンサーで初のレンズ交換式カメラとなりましたが、交換レンズを何にするかということにも大きく悩みました。まずは口径が大きく、ズームであるということから「18~35mmF1.8DC HSM Art」を選びましたが、その選択は間違いなかったと思っています。特にこのレンズでの焦点距離35mm域での描写は、絞り開放からの解像性能の高さは目をみはるものがあります。そして広角側では周辺画像に一部きびしさを感じますが、同じ光学系のレンズが他社向けにも供給されていることを考えると、高画質フォビオンセンサーならではの、シビアな部分が描写特性に表れているのではないかと考えたのです。
そしてフォビオンセンサーの画像処理回路にはかなりのパワーを必要とするために過去のカメラにはバッテリーが複数同梱されていましたが、sdクアトロでは、他社一眼レフに使われているのと同等な寸法・容量のものが1個ついてきているので、かなり安定したと考えました。もちろん撮影枚数にもよりますが、通常の撮影枚数範囲では1個のバッテリーでたりるようになったと解釈するわけです(実際使っていても、そのように感じました)。ただし、dpクアトロでは電池消耗を気にすることから、撮影後はメイン電源スイッチをこまめに切るように努めていましたが、この点に関してはsdクアトロも一緒ですが、さらにバッテリーを2個追加できる縦位置バッテリーグリップがオプションで用意されているので、ヘビーユーザーはそれを使うともいいかもしれません。
なおsdクアトロは、炎天下で撮影していると、黒い金属ボディが太陽熱を吸収し、さらに本体からの発熱も加わって赤い液温計の形をした温度上昇警告が背面ディスプレーにでるのです。この警告がなるべくでないようにするためにも電源はこまめに切りましょうというわけです。温度警告が早めにでるように設定されているようで、もし警告がでても、そのまま撮影し続けても問題ないそうです。そしてもし限界を超えたときには自動的に電源が切れるので、スイッチをOFFにして10分ぐらい休ませれば復帰するとのことです。いずれにしてもフォビオンセンサーの信号処理には強力なパワーを必要とするのです。
この文章を読んでマイナス面のことばかり書いていると思うかもしれませんが、僕は、このあたりの事情をある程度は理解したうえでこのカメラを使った方がよいと思うからです。もちろんすでにシグマのフォビオンセンサーカメラのユーザーならばある程度了解していることだと思いますし、それを知ったうえでも、使いこなす熱烈なファンがいるということは、前掲のようにさまざまな条件を上回る画質が得られるカメラシステムだということなのです。デジタルカメラが本格的に登場してすでに15年を経過しました。世間では、もう今の技術、画素数で十分という考え方も多いですが、フォビオンにはこうした未完の魅力があり、これからの進歩がますます楽しみです。 (2016.7)
