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ライカに始まりライカに終わる · 連載コラム(市川泰憲)

第三十九回「サムスンNX1を使ってみました」

コーナー名
ライカに始まりライカに終わる
著者
市川泰憲(写真技術研究家、日本カメラ博物館)
対象機材・テーマ
サムスンNX1を使ってみました
概要・導入
韓国サムスンのAPS-C判ミラーレス一眼カメラ「SAMSUNG NX1」【写真1】を使う機会に恵まれましたので、簡単に使用感を報告してみましょう。このカメラが発表されたのは2014年ドイツ・ケルンで開かれた写真映像見本市のフォトキナです。APS-C判、2,820万画素裏面照射タイプのCMOS撮像素子を世界で最初に搭載し、15コマ/秒のAF撮影が可能、WiFiにIIIE802.11ac規格を採用し、4k映像信号をワイヤレスでPC/スマホ/モニターなどに転送でき、バッターが球を打った瞬間、ジャンプして飛び上がったところなどを簡単に撮れるサムスンオートショットと呼ばれるユニークな機能を搭載するなど、…

1. 歴史・機構・蘊蓄(エッセイ・解説)

【写真1】サムスンNX1(画像をクリックすると拡大して見ることができます)
■SAMSUNG NX1を使ってみました

韓国サムスンのAPS-C判ミラーレス一眼カメラ「SAMSUNG NX1」【写真1】を使う機会に恵まれましたので、簡単に使用感を報告してみましょう。このカメラが発表されたのは2014年ドイツ・ケルンで開かれた写真映像見本市のフォトキナです。APS-C判、2,820万画素裏面照射タイプのCMOS撮像素子を世界で最初に搭載し、15コマ/秒のAF撮影が可能、WiFiにIIIE802.11ac規格を採用し、4k映像信号をワイヤレスでPC/スマホ/モニターなどに転送でき、バッターが球を打った瞬間、ジャンプして飛び上がったところなどを簡単に撮れるサムスンオートショットと呼ばれるユニークな機能を搭載するなど、技術的にも大変意欲的なカメラでした。そして最も僕が注目したのは日本語文字の採用です。それまでサムスンは世界的に第3位のデジタルカメラメーカーとまでいわれたほどでしたが、それらのカメラは日本では発売されていなく、日本語対応ではなかったのです。それがNX1では、日本語対応になったのですから、いよいよ日本でも発売かとも一時は思われたのです。
ところがNX1は海外では発売されたものの、日本では未発売どころか、2016年にはサムスンはカメラ製造から事実上撤退してしまったのです。これはサムスンのカメラ製造の屋台骨であったコンパクトデジタルカメラが、スマートフォン隆盛の影響をもろに受けたというのが大方の見方ですが、スマートフォン、タブレットでも「Galaxy」という優良ブランドをもつ企業ならではの将来を見据えた判断なのでしょう。2010年に世界初のAPS-C判のレンズ交換式ミラーレス機であるNX10を発売して以来、短期間で数々の新機種を投入してきましたが、結局、レンズ交換式の高級機分野ではシェアを確保できないままに、コンパクト機とともに撤退を余儀なくされたわけです。そういう悲運のカメラですが、どのような実力をもっていたのでしょうか。

【写真2】マウントの電子接点は8カ所(画像をクリックすると拡大して見ることができます)

今回使用したのはボディとレンズの基本構成です。レンズは「プロフェッショナルスタンダードズームレンズ16~50mmF2-2.8 S ED OIS」【写真2】です。このレンズは、NX1の発表された2014年フォトキナ会場にて配布されたNXレンズカタログでは、掲載されている15本のNX用レンズの内トップを飾っているので、ボディともどもフラッグシップ的な存在なのでしょう。カメラのセットアップは、あたりまえのことですが、いつも使っている各社のカメラと同様であり、操作に戸惑うようなことはありませんでした。唯一、カメラのセットアップ時にAC電源アダプターがないなと思ったのですが、マイクロUSBコネクターのついた電池ケースがついていて、カメラ側にもマイクロUSBコネクターがついているので、スマホや携帯などの電源アダプターとコードを使いなさいということのようですが、従来個別に専用AC充電器を必要としていたことを考えると納得できることです。

【図1】プロフェッショナルスタンダードズームレンズ16~50mmF2-2.8 S ED OIS(画像をクリックすると拡大して見ることができます)

このカメラに使われている裏面照射型CMOSは23.5x15.7mmで最大出力画像は6480x4320ピクセルなので、画素ピッチは3.6umとなります。プロフェッショナルスタンダードズームレンズ16~50mmF2-2.8 S ED OISは、【図1】に示すように12群16枚構成で、非球面ガラスを3枚、特殊低分散ガラスを2枚、高屈折率レンズを2枚使用し、手ブレ補正機構を搭載しています。カタログによると35mm判相当で24.6~77mmとなるようですから、35mm判換算値を約1.54倍と細かく設定しているようです。

【写真3】各操作部は他社と大きく変わることはない(画像をクリックすると拡大して見ることができます)
■使ってみたら

セットアップ終了後さっそく空シャッターを切ってみると、かなりクイックな動作を感じます。これはDSPの能力が高いためだそうで、2,820万画素で毎秒15コマのAF撮影を可能としているのはこのためということです【写真3】。そして3インチの背面モニターの描写はかなり鮮やかできれいです。ここはサムスンの誇るOLED(有機発光ダイオード)が採用されているからです。それでは、いつものようにフィールドへ持ち出した結果を紹介しましょう。

【作例1】いつもの英国大使館正面玄関前(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見ることができます)
●作例1:いつもの英国大使館正面玄関前

いつもの場所での撮影です。この日は、まだ梅雨明け宣言はされていませんが、前日までの雨も上がり、久しぶりに青空が広がって撮影条件としては好天でした。レンズは16~50mmのズームですが、この場での撮影は基本的には35mm判で焦点距離35mmとしていますので、焦点距離で24mm指標にセットして撮影。絞りはこれまたいつものようにF5.6にセットして、絞り優先AEで撮影しました。その結果ですが、視覚的にかなり良好な画像で、フォーカスターゲットである屋根の頂点に近いところに位置するエンブレムに合わせましたが、十分に解像しています。門柱の文字もよく読めます。さらに画面左右の植栽、避雷針などを画素等倍で見ても、色収差の影響はあまりないようです。あえて難点をいうならば、きわめて主観的ですが、画素ピッチが小さいためでしょうか、壁面、窓枠などを見るとわずかに立体感に乏しいような感じがあります。これは1画素のサイズが小さくなることでダイナミックレンジが狭くなることに起因することだろうと考えられますが、本機だからということではなく、各社高画素タイプに共通したことでもあります。ピント合わせは背面液晶のタッチAFを使用しました。
≪撮影データ≫焦点距離24mm(36mm)、絞り優先AE、F5.6・1/500秒、ISO・AUTO 100、AWB。( )内は35mm判換算焦点距離。

【作例2】高層マンション(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見ることができます)
●作例2:高層マンション

こちらもすっかり恒例化した場面ですが、定点観測的に撮影することにより、シャープさ、質感、立体感、色収差の発生具合など、それぞれの機種間の相違点を見ることができるのです。そこで写った結果はということになりますが、左右背景にあるビルがわずかながらアウトフォーカスしているのですが、左側のビルの壁面はその質感がきれいに描写されています。ここで感じたことは、ISO感度オートセット、プログラムAEモードでもあまり絞り込まないプログラムが組まれていることです。
≪撮影データ≫焦点距離16mm(24mm)、プログラムAE、F5・1/500秒、ISO・AUTO 100、AWB。

【作例3】花ショウブ(1)(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見ることができます)
●作例3:花ショウブ(1)

近所の公園で菖蒲の花がきれいに咲きだしましたので早朝から撮影に行ってきました。アイレベルファインダーで、画面中心に花がくるようにしてシャッターを切りました。手持ち撮影で、三脚の使用は特に意識はしていませんが、手ブレ補正効果も手伝っているのでしょうか、花びらの質感はズームレンズらしく固すぎずに描写され、大変すばらしいです。朝6時半ごろ太陽光線は斜めで、ボケ具合も口径食はなく丸く描写され自然で、背景の水面が輝くように写り込んでいるのがいい感じです。
≪撮影データ≫焦点距離50mm(77mm)、絞り優先AE、F2.8・1/400秒、ISO・AUTO 100、+0.3EV、AWB。

【作例4】花ショウブ(2)(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見ることができます)
●作例4:花ショウブ(2)

作例3と同じ条件でしたが、腰を落として撮影するのはつらいので、背面液晶を起こしてウエストレベルファインダーのように上からのぞいて、ピントを合わせたい左のショウブの花びらの部分に指でタッチする“タッチAF”を使いました。ちょうど写真教室の先生と生徒さんがきていましたが、先生は木道の上でクジラのように這いつくばって撮るように指導していましたが、高齢の女性はいやだと頑張ってました。機材の進歩と選択、撮影法指導の難しさを感じた場面でもあります。背景のボケ具合では、ショウブの葉が重なり合ったところでは、わずかに2線ボケのような傾向もありますが、花のアウトフォーカスした部分は良好で、きれいな円形ボケを示しています。
≪撮影データ≫焦点距離45mm(69mm)、絞り優先AE、F2.8・1/640秒、ISO・AUTO 100、+0.3EV、AWB。

【作例5】アジサイの花(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見ることができます)
●作例5:アジサイの花

花ショウブと同様ですが、もっと近接したらどのような描写を示すのだろうと、望遠側50mmにズームしてアジサイのガクに近づいた撮影です。画素等倍まで拡大して見るとわかりますが、硬すぎずに解像感のある描写です。
≪撮影データ≫焦点距離50mm(77mm)、プログラムAE、F2.8・1/200秒、ISO・AUTO 100、+0.3EV、AWB。

2. 操作方法・メンテナンス・修理のポイント

【作例6】八国山遠望(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見ることができます)
●作例6:八国山遠望

いつも定点観測のようにして、遠景の描写特性を樹木の葉などで見る所です。通常に見る範囲では必要十分な解像性能を持っています。撮影時焦点距離は最広角の16mmですが、画素等倍までに拡大して見ると画面右側にわずかな甘さを感じるのですが、画素等倍そのものは、通常のプリント時にはありえない拡大率ですので無視できる範囲です。撮影は、すべてお任せのプログラムAEですが、もう少し絞り込まれてもよい場面ではないかと思うのです。画面上下中央の少し上を見ると電車の架線が見えるのですが、通常この架線は色収差の関係で、左右に色が原色でまばらに繰り返して見えるのですが、そのようなことはここでは見当たりません。光学系もしくは、専用レンズですのでデータ処理で色収差の発生が目立たないように処理されているのではないだろうかと考えました。
≪撮影データ≫焦点距離16mm(24mm)、プログラムAE、F5・1/400秒、ISO・AUTO 100、+0.3EV、AWB。

【作例7】八国山のふもとで(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見ることができます)
●作例7:八国山のふもとで

定点撮影位置から一番奥に見えるふもとの所へ行ったら、コスプレ写真を撮影している女性3人組を見つけました。最初は遠巻きに見ていて、3人の前に回り込んで撮影させてもらおうと考えましたが、その手前の男の子がまるで縛られたようにじっと動かずに見ているのです。こちらのほうがスナップ的に面白い写真になるだろうと、男の子の背後から狙いました。それにしても早朝の7時、まだ人の出は少ないと思ったのでしょうが、想像以上に多くの人がいたので、目立たないようにと木陰での撮影となったようです。シャドー部に露出の重点が置かれて、手前の子供のTシャツや草は飛ぶ寸前ですが、ぎりぎりセーフといった感じです。彼女たちは、三脚に一眼レフカメラを載せ、リモコンでシャッターを切っていましたが、昨今のコスプレ写真ブームを垣間見た気がしました。
≪撮影データ≫焦点距離22mm(33mm)、プログラムAE、F3.5・1/250秒、ISO・AUTO 100、+0.3EV、AWB。

【作例8】Oさんの個展で(その1)(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見ることができます)
●作例8:Oさんの個展で(その1)

都心から少し離れた住宅街のギャラリーバーで、ニューヨークでの作品で個展を開いたOさんのガッツポーズ。もともと照明は壁面の写真に適切になるようにセットされているので、そのままシャッターを切ると手前のOさんは、露出アンダーで暗い顔になってしまうので、+1.3EVの補正をかけました。AWBのままでの撮影で、画面全体であずき色になっていますが、会場の照明の影響で致し方ないところでしょう。限られたスペースで、顔と複数の作品を入れ込むために最広角の16mmでの撮影となりましたが、画面端の額縁のフレームに歪曲を感じますがあまり気になるほどではありません。むしろ画面中央にあるOさんの顔の解像、質感描写は素晴らしいです。
≪撮影データ≫焦点距離16mm(24mm)、プログラムAE、F2・1/50秒、ISO・AUTO 200、+1.3EV、AWB。

【作例9】Oさんの個展で(その2)(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見ることができます)
●作例9:Oさんの個展で(その2)

Oさんの個展には、古典レンズを愛好する写真仲間がたくさん集いました。ギャラリースペースで作品を堪能した後は、持ち寄った作品を見ながらのお話会です。このギャラリーバーは、複数の写真愛好家の人たちが出資して運営しているというのですが、なかなか良い雰囲気で、あっという間に時間が過ぎてしまいました。この場面の描写としては、ピントを合わせた手前のO2さんはぴったりで、ズームレンズということもありますが、背景のボケはすぐ隣に座ったYさん、さらに背後の女性、グラスなど、クセもなく柔らかく描写されていて、ISO4000に自動感度アップされましたが、きわめて自然に見えます。
≪撮影データ≫焦点距離38mm(58mm)、プログラムAE、F2.8・1/60秒、ISO・AUTO 4000、+1.3EV、AWB。

【作例10】室内での人物スナップ(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見ることができます)
●作例10:室内での人物スナップ

前の作例とはまったく別の場所で、別のグループ(業界写真クラブ)での懇親会での席で、カメラを見たいという人が僕を撮ったので、誰がシャッターを押したかわかりませんが、使うことにしました。いい感じで撮れていますが、画素等倍まで拡大するとわずかにブレを感じます。これは僕自身が動いているからで、いわゆる被写体ブレです。ただこのような写真を大きくすることはまずないでしょうから、必要十分以上な写りといえるでしょう。このカットでは、背景の僕よりも左側にいるYさんのボケ具合を見てください。ISO4000と自動感度アップしていますが、後ボケと同様、前ボケもクセがなく素直な描写です。
≪撮影データ≫焦点距離38mm(58mm)、プログラムAE、F2.8・1/60秒、ISO・AUTO 4000、+0.6EV、AWB。

【作例11】室内での集合写真(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見ることができます)
●作例11:室内での集合写真

クラシックカメラを愛好する人たちの集合写真です。いつもは違うカメラで撮影していますが、今回はなるべくさまざまなシーンでの撮影を心がけていましたから、NX1で撮影しました。三脚に据えて、内蔵ストロボをアップして、セルフタイマー撮影です。ストロボを発光させたせいか、文句なくきれいに写っています。35mm判30mm相当の画角ですが、ストロボの配光もムラなく全体をカバーしていますし、発色もまったく癖がありません。
≪撮影データ≫焦点距離20mm(30mm)、プログラムAE、F3.2・1/160秒、ISO・AUTO 400、内蔵ストロボ発光、AWB。

【作例12-a】高感度適性を調べると、ISO 500(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見ることができます)
●作例12-a:高感度適性を調べると(ISO 500)

モデルさんと花。PHOTONEXT 2016のソニーブースで撮影させてもらいました。このカットではプログラムAEのまま、背景色との関係で+1EVの露出補正を加えての撮影ですが、撮影場所が本来ストロボを使っての撮影用の設定でしたので、自動感度セットのためにISO 500相当に自動的にアップされました。ピントを本当は細かくモデルさんの目に合わせたいところですが、デモの間の時間を借りて撮影OKということでしたので、素早くピント合わせを行うために「顔認識AF」モードにしました。結果はご覧のとおりですが、特にパリパリと硬調ではなく、ポートレイトに向いた柔らかい調子です。これを、マニュアル感度セットでISO 100にして、外部ストロボを発光させて、絞り込むとまた違った描写になるでしょう。ここではISO 500のシャープネスと、肌と花の発色具合を見てください。
≪撮影データ≫焦点距離50mm(77mm)、プログラムAE、F2.8・1/500秒、ISO・AUTO 500、+1EV、AWB。

【作例12-b】高感度適性を調べると、ISO 51200(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見ることができます)
●作例12-b:高感度適性を調べると(ISO 51200)

このカメラのCMOS撮像素子はサムソン製APS-Cサイズの裏面照射型です。発表は2014年の9月のフォトキナでしたが、従来小型センサーのデジタルカメラに向くといわれていたものを一気にAPS-C判まで拡張したのですが、マイクロプリズムから撮像素子までの距離が短いことから高感度適性が高く、NX1では当時最高の感度ISO 51200を達成していました。そこで、このISO 51200はどんな描写を示すのだろうかということで、マニュアルでISO感度を51200に設定して作例12-aと同じ環境下で、撮影してみました。結果はここに示す通りですが、使えるか使えないかの判断は、撮影目的、拡大寸法に大きく依存しますが、あくまでも使用者の判断によるでしょう。僕個人の見方としては、画素ピッチが3.6μmと小さいのに、A4判ぐらいで使用するならノイズの発生が目立ち彩度もかなり落ちますが、ある程度使えるのではないかと思うほどの良好な高感度適性です。
≪撮影データ≫焦点距離50mm(77mm)、プログラムAE、F8・1/1250秒、ISO 51200、+1EV、AWB。

【写真4】縦位置グリップを取り付けると堂々とフラッグシップ機らしくなります(画像をクリックすると拡大して見ることができます)
【写真5】作例には示しませんでしたが、バッターが球をバットにあてた瞬間、ジャンプして飛び上がったところなどを簡単に撮れるサムスンオートショットのメニュー画面。日本語のフォントもきれいです(画像をクリックすると拡大して見ることができます)
■大きな時代の流れのなかで

しかしなぜサムスンのカメラをこの時期使ってみたのかと思われるでしょうが、NX1はカメラ製造から撤退した、サムスンのフラッグシップ機【写真4】であったからです。しかも発表時はAPS-C判の裏面照射タイプCMOSとして初のものでした。この裏面照射タイプの撮像素子を最初に搭載したのは2009年発売の「ソニーサイバーショットDSC-WX1」で、2.4型1,020万画素、従来の表面照射タイプの約2倍の感度が得られるというものでした。裏面照射タイプはもともと小型の撮像素子に向く技術とされていましたが、ソニーでは2013年6月に大型化した裏面照射タイプCMOSの1型2,020万画素を「サイバーショットDSC-RX100 II」に採用しています。そして2014年11月にAPS-C判で2,820万画素裏面照射タイプCMOSを搭載した「サムスンNX1」が発表されたのです。ところが2015年8月にはソニーがフルサイズで4,240万画素裏面照射タイプCMOS撮像素子搭載の「α7R Mark II」を発売したのです。サムスンの裏面照射タイプの大型CMOSセンサー搭載は、日本国内で発売されなかったことも手伝って話題には上りませんでした。サムスンNX1の最高感度はISO 51200(画素ピッチ3.6μm)でしたが、ソニーα7RIIの最高感度はISO 25600(増感で102400、画素ピッチ4.5μm)ということでしたので、裏面照射タイプは高感度に強いと一気に人気が高まったのです。ところが2016年4月に発売されたペンタックスK-1ではフルサイズ3,640万画素(画素ピッチ4.87μm)で、裏面照射タイプでなくても最高感度ISO 204800相当を達成しているのです。これは、やはり同じ時期に発売されたフルサイズで2,082万画素(画素ピッチ6.4μm)と低画素タイプのニコンD5がISO 328万相当を達成していますので、各社の技術開発競争が日進月歩であることを示す何物でもないと思うわけです。
ちなみにソニーα7RIIの裏面照射タイプCMOSの特徴として、マウントアダプターを使用してライカレンズの広角で周辺光量の低下、色付きなどが大幅に改善される特徴がありましたが、NX1(フランジバック25.5mm)はフルサイズより小さいAPS-C判ですし、マウントアダプターがなかったので、この辺りは確認できませんでした。
サムソンがカメラ分野に参入したのはフィルムカメラの時代で1990年ごろです。最盛期にはドイツのローライ、日本のユニオン光学を傘下にして、日本市場でカメラを販売した時期もありましたが、ほどなく撤退していました。その後デジタルカメラの時代になると、コンパクトカメラの分野で生産規模は世界第3位とまでいわれるほどになりましたが、結局、コンパクトデジタルカメラの衰退に伴って、最終的にはカメラ事業そのものから撤退ということになりました。
このことは、何を意味するのでしょうか。過不足ない最新技術を搭載したカメラであっても、レンズ交換式の高級カメラ分野においてはビジネスとして成立しなかったのです。またデジタルカメラは撮像素子を手がけていることが企業の生き残りの条件とまで一時期はいわれましたが、他社の例を見るまでもなく、やはりそうでもないようですし、成熟したカメラ産業において高級機はブランド力も大事なことを再認識したわけです。そしてサムスンという企業総体の中にあっては、カメラのもつポジションは微々たるものでしかなかったのではないでしょうか。しかし、ここまで高めてきたカメラ技術を撤退によって失うことを何よりも残念に思うのはサムスンのエンジニアたちではないかと思うのです。日本のカメラ製造を手本にして、追いつき、追い越せとばかりにやってきたのでしょうが、カメラという産業構造そのものが、大きな時代の流れの中で変化してきたことによるひとつの結果であると思うのです。
(2016.07)