mediajoy オンラインショップメディアジョイカメラSHOP

ライカに始まりライカに終わる · 連載コラム(市川泰憲)

第三十八回「超広角フォクトレンダー・ヘリアー ハイパーワイド10mmF5.6アスフェリカル」

コーナー名
ライカに始まりライカに終わる
著者
市川泰憲(写真技術研究家、日本カメラ博物館)
対象機材・テーマ
超広角フォクトレンダー・ヘリアー ハイパーワイド10mmF5.6アスフェリカル
概要・導入
光学技術の進歩で年々短焦点化する写真レンズ。僕の短い写真経験によれば、ミラーアップしないで使う一眼レフの広角28mmが複数登場したのは1960年代の後半でした。当時はレトロフォーカスタイプという新しいレンズデザインで日本の交換レンズメーカー各社から登場した時期です。そして、レンジファインダー式のライカ用では、28mmF6.3のヘクトールが登場したのが1935年、スーパーアンギュロン21mmF4が登場したのが1958年、さらにホロゴン15mmF8が1972年でした。一眼レフ用には、ミラーアップしないでよいレンズとしては1972年ごろに開発された、カールツァイスディスタゴン15mmF3.5の派生機…

1. 歴史・機構・蘊蓄(エッセイ・解説)

光学技術の進歩で年々短焦点化する写真レンズ。僕の短い写真経験によれば、ミラーアップしないで使う一眼レフの広角28mmが複数登場したのは1960年代の後半でした。当時はレトロフォーカスタイプという新しいレンズデザインで日本の交換レンズメーカー各社から登場した時期です。そして、レンジファインダー式のライカ用では、28mmF6.3のヘクトールが登場したのが1935年、スーパーアンギュロン21mmF4が登場したのが1958年、さらにホロゴン15mmF8が1972年でした。一眼レフ用には、ミラーアップしないでよいレンズとしては1972年ごろに開発された、カールツァイスディスタゴン15mmF3.5の派生機種としてSMCペンタックス15mmF3.5などがよく知られていました。このうち、ライカM用のホロゴンは中古市場で、最高値は100~200万円ぐらいつけられていた時期もありました。
そこにコシナから1999年にフォクトレンダーブランドで登場したのが「スーパーワイドへリアー15mmF4.5 Aspherical」です。このスーパーワイドへリアーは、同じ15mmでもF4.5と大口径で、 ホロゴンのように画像周辺と中心部の濃度差のバランスをとるセンターフィルターを使わなくても周辺光量の低下が少なく、ホロゴン同様にディストーションも少なく、とにかくよく写り、安価だったのです。たちまち人気商品となり、当初はライカスクリューマウントでしたが、その後、光学系はそのままで距離計連動のライカMマウント互換のVMマウントのII型となり、さらにフルサイズデジタル対応の光学系へと一新されて2014年にIII型になったのです。
そのコシナがこの5月発売したのが、さらに焦点距離が短いヘリアーのハイパーワイド10mmF5.6なのです。広角で画角130°というのは、実は僕にとってはまったくの未体験ゾーンで、ファインダーをのぞいて見るまではどのように写るかわかりませんでした。僕は、作例写真家ではありませんので、ここまで超広角なるとはたして使いこなせるか心配でしたが、使いこんでいくうちにどうにか、この種の広角レンズの活用法が見えてきたので、以下に紹介しましょう。

●ライカMマウントかソニーEマウント用を選ぶ

最初に決断しなくてはならないのが、今回のレンズはライカMマウントかソニーEマウント用で提供されるので、どちらかを選ぶということです。もちろんそのどちらも専用マウントで、両方のボディを持っている人は、それぞれを購入できればベストなのですが、そうはいきません。そこでいままでだと、無条件でライカMマウントの方を選び、ライカM⇒ソニーEマウントにアダプターで変換してライカとソニー両方のボディで使用というというわけですが、今回は少し事情がなりました。
まずライカMマウント用を選択すれば、α7シリーズで使うときにマウントアダプターをどのようなものを選ぶかによって、ときには4隅にケラレがでてしまうこともあるのです。経験的には専用以外のレンズを装着すると、広角系より望遠系にケラレがライカMでもソニーαシリーズでも発生します。その点においては今回の場合は超広角ですので心配に及ばないのですが、一応チェックポイントになります。

【図1】ヘリアーハイパーワイド10mmF5.6 Aspherical(10群13枚構成)。(画像をクリックすると大きくして見られます)
【写真1】フォクトレンダー・ヘリアー ハイパーワイド10mmF5.6アスフェリカルを装着したソニーα7R。(写真をクリックすると大きくして見られます)

そこで仕様の詳細を調べてみると、ライカ用ソニー用のどちらも光学系は同じ10群13枚構成(図1)ですが、ソニーEマウント用には電子接点がついているのです。その内容は、Exif情報が撮影後のファイルに付加され、レンズ名、焦点距離、最大絞り値、設定絞り値がわかるのです。さらに調べてみると、レンズ情報を読み取って周辺光量や色収差、歪曲収差の補正を行うようなのです。またボディによっては、5軸の手ブレ補正機構にも連動するのです。とりあえずは、AFには連動しないコシナスタイルを踏襲しているのですが、この電子接点の有無は、基本的な光学性能を超えたところで写りに作用するので外せません。
結果として、ライカMとソニーα7シリーズの現状と将来を種々自分なりに考慮して、僕はソニーEマウント仕様の「フォクトレンダー・ヘリアー ハイパーワイド10mmF5.6アスフェリカル」(写真1)を選びました。

●さまざまな場面で画角130°を実感する
【写真2】ソニーEマウント用には電子接点が付いている。(写真をクリックすると大きくして見られます。)

このソニーEマウント仕様レンズの最大の特徴は、単にレンズ機能だけで撮影を行うのはなく、ボディと情報を交換してベストの結果をだすのです。たとえば周辺光量の低下や色付きは、ここで用いたα7Rだとレンズによってはかなり顕著に表れるのですが、最新型の裏面照射型CMOSを使ったα7RIIだとさほど気にならないというのも現実です。つまり今回使用のレンズにとっては、厳しい条件が出るのがα7Rなのです。このあたりは本シリーズのソニー7RIIのレポートをご覧いただければおわかりいただけるでしょう。またレンズはヘリコイドを回転させると、ファインダー下部には距離指標が表示されるのです。これも電子接点により距離情報が伝わるためだと思いますが、このような極端に広角なレンズの場合には、ヘリコイドの回転位置を大まかに知れるのはありがたいことです。

それでは、実際に撮影した中からヘリアー ハイパーワイド10mmF5.6の写り具合を紹介しましょう。

【作例1】いつもの英国大使館正門前。(写真をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)
■作例1:いつもの英国大使館正門前

いつものように英国大使館正面玄関前をねらってみました。超広角でも毎回定位置から撮影していますが、一連のシリーズで15mm、21mmといった焦点距離のレンズをとり上げていますので、10mmとの画角の違いを見てほしいのです。パソコンモニター上で画素等倍の画像を見るとわずかに解像感が低いように感じます。これは焦点距離が短いので、撮影倍率が低くなるためにそのように見えるのですが、正面の細かい文字もしっかりと読め高解像度であることがわかります。撮影の日は伊勢志摩サミット開幕直前、警備はいつもなら民間のガードマンなのに、この期間は機動隊が敷地を取り巻くように配置されていました。天気は梅雨入り直前の青空といった感じで、快晴とはいえませんでした。
≪撮影データ≫カメラ:絞り優先AE、F8・1/800秒、ISO200、AWB、ソニーα7R

【作例2】友真院脇の植栽。(写真をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)
■作例2:友真院脇の植栽

英国大使館からの帰り道に見つけた友真院という建物の植栽。ピントは右下にある花に合わせてあります。最短撮影距離は30cmなので、ほぼその距離に合わせましたが、確かに花はシャープに写り、左端の背後にいる人物はボケてます。そして何よりも、建物の壁面が一直線に描出されているはディストーションのなさを示しているわけです。
≪撮影データ≫カメラ:絞り優先AE、F8・1/800秒、ISO200、AWB、ソニーα7R

【作例3】高層マンションを下からながめる。(写真をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)
■作例3:高層マンションを下からながめる

前の2枚と異なる日に天気が良かったので、英国大使館近くのマンションを撮影してみました。撮影時に、ビルの天辺が入るようにと近づいていくと、画面中央左にあるブルーの車止めのさらに奥まで入って撮影することになります。さすがパースがつきすぎなので、少し後ろに下がり周辺の状況も写したのがこのカットです。このシリーズで同じ場所を撮影していますので、他の焦点距離と比較してもらうとわかりますが、マンションの壁面はしっかりと描写されています。画素等倍で画面端を見ると倍率の色収差による影響と見られる部分がわずかにありますが、10mmという焦点距離、さらには画素等倍という実際のプリントではありえない拡大率ですので、基本的にはかなり良好な収差補正だと思うのです。
≪撮影データ≫カメラ:絞り優先AE、F8・1/800秒、ISO320、AWB、ソニーα7R

【作例4】目黒区駒場にある前田家本邸、その1。(写真をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)
■作例4:目黒区駒場にある前田家本邸、その1

旧加賀100万石の前田家16代当主利為侯爵の本邸として1929(昭和4)年に建てられた洋館を庭園の側から狙ってみました。本来なら正面玄関から狙うのがいいのでしょうが、撮影可能な場所として背後がなく、下から仰ぎ見るようにして撮影するポジションしかなかったので、歪みのないように写る場所を探したら裏庭にわずかに高い築庭のような場所を見つけ、そこから撮影しました。三脚は使用していませんが、注意深く水平・垂直がでるようなポジションでシャッターを切りました。壁面のスクラッチタイルを見るとわかるように、画素等倍まで拡大してもしっかりと質感が描写されています。
≪撮影データ≫カメラ:絞り優先AE、F11・1/400秒、ISO320、AWB、ソニーα7R

【作例5】目黒区駒場にある前田家本邸、その2。(写真をクリックすると大きくして見られます)
■作例5:目黒区駒場にある前田家本邸、その2

作例3を撮っていて気づいたのですが、少しカメラを振るだけで、大きく建物にパースがついてしまうのです。そこで、同じ位置からカメラをわずかに上下左右に向けたカットを示してみました。その向けたというのも角度的にはきわめてわずかですが、超広角ではパースペクティブの発生がすごく目立つのです。超広角だから、パンフォーカス・ノーファインダーで撮影するという考えもありますが、僕個人としては超広角だからこそしっかりと水平・垂直をだして撮影したいと思ったわけです。
≪撮影データ≫カメラ:絞り優先AE、F11・1/400秒、ISO320、AWB、ソニーα7R

2. 操作方法・メンテナンス・修理のポイント

【作例6】前田家本邸の階段広間。(写真をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)
■作例6:前田家本邸の階段広間

10mmという超広角で、最も効果的な使い方はこのような建築物の室内を撮影する必要のある、建築やインテリアデザイナー、さらには不動産業の人々にとっては極めて有効なレンズだと思うのです。画面中央のマントルピース、角柱などはイタリア産の大理石が使われています。家具はイギリス製の物が配置されていますが、室内には日本の伝統的な唐草や雛菊をあしらった文様も見られるとされていますが、画素等倍まで拡大すると、それらしきパターンを見ることができます。限られたスペースでの撮影で、これだけ自然に見えるのはディストーションと周辺光量の低下がほとんどないからです。撮影は手持ち限界の1/10秒、本来なら低感度に設定し、三脚を使って撮影すれば、さらに高画質が得られます。
≪撮影データ≫カメラ:絞り優先AE、F5.6・1/10秒、ISO1250、AWB、ソニーα7R

【作例7】前田邸の階段。(写真をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)
■作例7:前田邸の階段

階段広間から2階に上がる階段です。手すりの曲線に対して、窓枠はカメラを斜めにした分だけパースがついていますが、画面下の欄干下部の直線性はみごとなものです。そしてこのように自然に見えるのは、ヘリアーハイパーワイド10mmはディストーションのないレンズだからといえます。
≪撮影データ≫カメラ:絞り優先AE、F5.6・1/5秒、ISO1250、AWB、ソニーα7R

【作例8】前田邸の時計。(写真をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)

【作例8】前田邸の時計
ごく自然に上から下まで写っていますが、実は被写体である時計までは1mもない撮影距離なのです。撮影は絞り開放F5.6で行っていますが、このレンズにとっては絞り開放なのです。とはいっても、時計の文字盤、左右上にある木彫りの彫刻などまったく画像にくずれはありません。
≪撮影データ≫カメラ:絞り優先AE、F5.6・1/6秒、ISO1250、AWB、ソニーα7R

【作例9】前田邸の庭園。(写真をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)
■作例9:前田邸の庭園

建築物の撮影ばかりでは物足りません。何かこの10mmレンズに合う一般的な被写体はと考えて、庭のほうを見ていたら、老夫婦がゆっくりと芝生を横切り散歩している姿が目に入りました。10mm、画角130°という広角では建築物をと決めて駒場公園にきたのですが、できれば違う感じのカットをと考えていたので、これだとばかりにシャッターを切った1枚です。結果としては、画面周辺は4隅に引っ張られたように撮れましたが、逆に写真として中心の老夫婦に視線が行くような流れができたのも超広角ならではの描写です。ある程度大きくプリントしないとその写真の雰囲気と描写の特性はでてこないでしょう。
≪撮影データ≫カメラ:絞り優先AE、F11・1/250秒、ISO1250、AWB、ソニーα7R

【作例10】煉瓦窯。(写真をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)
■作例10:煉瓦窯

栃木県野木町にある旧下野煉化会社の円形連続煉瓦窯です。明治23年から昭和46年まで稼働していたそうで、工場、倉庫、ホテル、橋脚などに使われた赤レンガを多数製造し、日本の産業の近代化にはたした役割は大きく、現在は国指定の重要文化財に指定されています。外形は円形とはいっても正確には16角形で、外周は約100m、高さ43mです。この窯を歪みなく撮るために、正対して撮影しましたが、変なパースもなく青空のなかに撮影できたのはラッキーでした。そしてなによりも、画面周辺の空に目立った濃度低下がないのは素晴らしいことです。
≪撮影データ≫カメラ:絞り優先AE、F11・1/250秒、ISO200、AWB、ソニーα7R

【作例11】草木湖。(写真をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)
■作例11:草木湖

群馬県のみどり市にある利根川水系の草木ダムのダム湖です。総貯水容量が約6千万トンとされていますが、訪れた日は水を満々とたたえていました。右端に見えるダムとその左の浮き桟橋状の部分と先端のブイにつながれた伸びるロープはみごときれいにそろって、まっすぐに直線としてすらっと伸びています。その一番奥に見える「草木ダム」と書かれた文字もしっかりと読めます。もちろんソニーα7Rが3,640万画素という高画素機だから判読できるわけですが、レンズ性能としては解像力が十分にあるということになります。
≪撮影データ≫カメラ:絞り優先AE、F11・1/250秒、ISO200、AWB、ソニーα7R

【作例12】アーティスト、安達ロベルトさん。(写真をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)
■作例12:アーティスト、安達ロベルトさん

音楽家でもあり、写真家でもある安達ロベルトさんの「断片化の前に」というテーマの個展会場での1枚です。実はこのカットも、主要被写体である安達さんとの距離は1m強とわずかでしかありませんが、写った結果はきわめて自然です。絞りF5.6の開放で、感度はISO1600相当にセットしての撮影ですので、さすが画素等倍に拡大して見るとノイズの発生は目につきます。しかしノイズがあるとはいえ、微細な部分まで十分に解像しています。
≪撮影データ≫カメラ:絞り優先AE、F5.6・1/500秒、ISO1600、AWB、ソニーα7R

【作例13】円卓を囲んで。(写真をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)
■作例13:円卓を囲んで

写真業界に顔を出したときからの友人Fさんの快気祝いでの1カット。このような場面の撮影だと、従来はフィッシュアイレンズか、最近ではリコーのシータのような360°パノラマカメラでの撮影がいいのかもしれませんが、とりあえずハイパーワイド10mmレンズを持っていたので撮影してみました。最初は席を立ってのポジションからでしたが、撮影している自分を除いて全員が写りこむようにと、椅子を少し後に引いて、その椅子に立っての撮影です。ひと声かけて、こちらに向いてもらえばベストショットとなったかもしれませんが、主役のFさんのうれしそうな顔が自然で面白い写真となりました。撮影感度は、一連の撮影のなかで最も高いISO2500です。同じαシリーズでも、高感度適性の高いα7RIIを使えばもっと粒状感のないなめらかな描写になったはずです。
≪撮影データ≫カメラ:絞り優先AE、F5.6・1/40秒、ISO2500、AWB、ソニーα7R

【写真3】ヘリアーハイパーワイド10mmF5.6はシネ用に対応させて、絞りリングは、クリックなしとありを選択できる。(写真をクリックすると大きくして見られます)
●人間の視野角度と写真レンズの画角

「フォクトレンダー・ヘリアー ハイパーワイド10mmF5.6アスフェリカル」を使うことは僕の作画力を試されているようで、どうすると焦点距離を活かした効果的な写真が撮れるのだろうかと悩みました。いくつか撮りこんでいくうちに、今さら都庁の中庭からの写真でもないだろうし、建物の隙間からのぞく風景でもないだろうと考えました。そして得られた結論は、僕がいくつか示した作例にあるようにディストーションのなさからくる直線性の良さで、建築それも室内での撮影に向くという結論に達しました。
実はこのような考えは、「シグマdp0クアトロ」のレポートをしたときに、知人の写真好きの不動産業の方からdp0クアトロが欲しいと伝えられ、その理由として教えられたことなのです。パースペクティブを効かせ、デフォルメされた奇をてらった面白写真ならフィッシュアイレンズのほうが向くと思うのです。このあたりはソフトフォーカスレンズが常用レンズとならないのと同じことだと思いますが、ヘリアー ハイパーワイド10mmF5.6はある分野では常用レンズとして使うことができるのです。
ところで10mm130°という画角はどういう角度なのでしょうか? 人間は若いうちの好みの画角は広角で、歳を食うと徐々に挟角になってくるという説がありますが、これはあくまでもその人の印象なので客観性はありません。そして人間の視野角は写真の画角にするとどの程度の焦点距離になるのだろうかということも、人によっては眼鏡使用などの条件も付加されるので、これまたあいまいです。たとえば「人間の視野角、写真レンズ画角」と検索すると、50mm標準レンズ説が多いのですが、これは最初に発売されたライカの交換レンズの中で焦点距離的に標準であったことであり、人間の目の視野角はもっと広いとされているのです。ちなみに生理光学的に人間は、ライカ判カメラのいくつの焦点距離で撮影したのを好むかという統計データをとった例が、生理光学の権威畑田豊彦氏により発表されていますが、それによるとライカ判フルサイズでは、人は焦点距離35mmレンズで撮影された写真を好むというのです。しかし人間は焦点距離35mmの画角レンズを好むけれど、それが人間の視野角であるのとは別なのです。
そこで僕なりの簡単な実験を行ってみました。まず、自分で正面を見たときにむりなく見える左右の範囲をおぼえておき、α7Rボディに焦点距離の異なるレンズを取り付け、それをカメラのファインダーでのぞいたときどの焦点距離でだいたい合致するかを調べたのです。その結果、僕の視野角は35mm判の焦点距離24mmに水平画角が等しいということになりました。もちろんある部分を注視すれば視野角はさらに狭く感じ、目を左右にぎょろぎょろと振ればもう少し広くなり、さらに首を左右に振ればもっともっと広い範囲が見渡せることになるのです。そこで改めてヘリアー ハイパーワイド10mmF5.6を装着してα7Rのファインダーをのぞくと、カメラを動かさなくても、ちょうど首を軽く左右に振ったぐらいの範囲が見渡せるのです。つまり、人間の一般的な視覚にはない広い範囲までが見渡せるのが10mmF5.6の画角なのです。ですから、まずは自分の頭で写る感じをイメージするというのが難しいし、さらに被写体までの距離にも関連してくるので、ファインダーをのぞいて作画を吟味するというのが大切なわけです。かつてキヤノンが50mmF0.95レンズを発売した時のキャッチフレーズは"人間の目より明るい"でしたが、ヘリアー ハイパーワイド10mmF5.6は"人間の目より幅広く見える"レンズであるわけです。
今回もう1つ注目したのは、ソニーのレンズマウントの技術情報の開示に関することです。ソニーがEマウントでAPS-C判のNEX-3を発表したのは2010年米国PMAのときでした。その時のプレスコンファレンスで、マウントの技術情報を無料で開示すると発表していましたが、それはかつてのビデオのベータとVHSの問題からの教訓で、大切なのは仲間づくりなのだろう、くらいにしか感じていなかったのです。ところが開示を受けた結果か、単なる機械的なコピーが行われたかはわかりませんが、半年後のフォトキナにはソニー用のレンズマウントアダプターが60種以上も世界中のメーカーから登場したのです。1年後にはその数は、数百種にもなったと聞きました。現在ではマウントアダプターの市場のほとんどを中国企業が席巻しているのも事実です。その種類たるやそこまで需要があるのかと思えるほど希少なカメラマウントに対応させて、しかも安価なのには驚きます。
消滅したカメラのレンズを、マウントアダプターを介してソニーのカメラに、しかも2013年からはライカ判フルサイズにも対応できるようになったのです。この結果、“クラシックレンズ遊び”なる新しいホビー分野が確立されたのです。何よりも、ソニーのα7シリーズが大きく今日のポジションを築いたのには、こうしたパテントロイヤリティーフリーのマウント戦略の存在が大で、その拡大の一端を担ったのは間違いないことです。
さらに今回ソニーEマウントに対応させた「ヘリアー ハイパーワイド10mmF5.6」の登場は、ソニーEマウントカメラの現在のポジションを示す何物でもないことの表れであると考えるのです。しかも単なる機械的な結合だけでなく、AF以外の電子情報を十分に活用してのことなのです。すでにコシナはAF非対応ながら、キヤノンEF、ニコンFマウントには電子接点を対応させていました。これに新たにソニーマウントが加わったわけですから、カメラの勢力分野も新しい3巨頭の時代を迎えたのだと思った次第です。
(2016.06)