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ライカに始まりライカに終わる · 連載コラム(市川泰憲)

第三十七回「気になる最近の中国レンズ」

コーナー名
ライカに始まりライカに終わる
著者
市川泰憲(写真技術研究家、日本カメラ博物館)
対象機材・テーマ
気になる最近の中国レンズ
概要・導入
カメラと写真映像のワールドプレミアショーと銘打った「CP+2016」が2月25日から28日の4日間にわたってパシフィコ横浜でカメラ映像機器工業会の主催で開かれました。今年はオリンピックイヤーだということで、年明け早々からニコンとキヤノンのフラッグシップ機である「D5」と「EOS-1DX Mark II」と大物が相次いで発表され、さらにペンタックス初のフルサイズ機「K-1」も発表されるなど、前人気は上々でした。また各社からの新製品もそれぞれ刺激的でしたが、会場を見て歩いてもう1つ気になったのは、中国レンズメーカーの出展とその製品のラインナップです。もともと海外のレンズメーカーとしては、カールツァ…

1. 歴史・機構・蘊蓄(エッセイ・解説)

カメラと写真映像のワールドプレミアショーと銘打った「CP+2016」が2月25日から28日の4日間にわたってパシフィコ横浜でカメラ映像機器工業会の主催で開かれました。今年はオリンピックイヤーだということで、年明け早々からニコンとキヤノンのフラッグシップ機である「D5」と「EOS-1DX Mark II」と大物が相次いで発表され、さらにペンタックス初のフルサイズ機「K-1」も発表されるなど、前人気は上々でした。また各社からの新製品もそれぞれ刺激的でしたが、会場を見て歩いてもう1つ気になったのは、中国レンズメーカーの出展とその製品のラインナップです。もともと海外のレンズメーカーとしては、カールツァイス、ライカカメラなど歴史あるドイツ企業に対し、日本のメーカーが存在したのですが、そこに韓国や中国の新興メーカーが徐々に製品を出してきたのです。このうち韓国のサムヤン(SAMYAN)は、すでに世界第3位の交換レンズメーカーであるといわれるまで伸びています。サムヤンは日本の総代理店はケンコー・トキナーが担当しているので、通常の写真ルートで購入することができますが、最近はネット通販店を調べてみると、海外で発表された中国メーカーのレンズも、そのほとんどが日本の代理店を通して、時間的な差がなく購入することができるのです。

そして会場を歩いていて思いついたのが、それぞれの社の代表的なレンズを試写させてもらおうと考えたのです。僕はCP+2016に連日通っていましたが、最終日に事前に調べておいたマイクロフォーサーズ用に「ルミックスG1」、35mmフルサイズ用に「ニコンD700」と「ソニーα7R」のボディを持参して、各社を回ることにしました。

【写真1】中一光学のブース(写真をクリックすると大きくして見られます)
【写真2】Mitakon SPEEDMASTER 135mm F1.4(写真をクリックすると大きくして見られます)
【作例1:Mitakon SPEEDMASTER 135mm F1.4】絞り:F1.4開放、シャッタースピード:1/200秒、ISO1000(写真をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)
【写真3】Mitakon SPEEDMASTER 50mm F0.95(写真をクリックすると大きくして見られます)
【作例2:Mitakon SPEEDMASTER 50mm F0.95】絞り:F0.95開放、シャッタースピード:1/500秒、ISO1000(写真をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)
■中一光学(Shenyang Zhongyi Optical Electoronics Co.,Ltd)

中一光学の存在を初めて知ったのは、ドイツ・ケルンで行われたフォトキナ2014でした。その時に展示されていたのはF0.95シリーズのミタコン・スピードマスター35mmと50mm、クリエーターシリーズの35mmF2、85mmF2、135mmF2.8と0.72倍のリアコンバーターや4K対応アナモフィックレンズでした。「CP+2016」の会場で中一光学を見つけたときに感じたのは、とうとう日本にもやって来たかというのが正直な印象でした。
ブースは、僕の常駐する場所の隣でしたので、朝一番に訪問して、顔を出したとたんに“ニーハオ”といわれニーハオと返しましたが、それから先は持ち込みのカメラで写していいかというと、どうぞということで、2本のレンズを撮影させてもらい、謝謝とお礼をいって終始にこやか友好的に撮影は成功しました。【写真1】には中一光学のブースを示しました。

≪Mitakon SPEEDMASTER 135mm F1.4≫【写真2】
焦点距離:135mm、最大口径比:F1.4、レンズ構成:5群11枚(EDガラス3枚使用)、ピント合わせ:マニュアル、最短撮影距離:1.6m、絞り羽根:11枚(クリックストップなし)、最小絞り:F16、フィルター径:105mmφ、重さ:3kg、三脚座付き、マウント:キヤノン/ニコン/ソニーFE、製造本数:100本限定、価格:2,999US$(内金500US$)、発売:2016年前半

◎写してみたら【作例1】
撮影は、中一光学の隣にあるマウスコンピュータブースのモデルさんを撮影させてもらいました。限られた時間で、試用するわけですから、撮影は大口径のレンズの特徴を活かすために、すべて絞り開放で行いました。ピントはマニュアルですが、EVF上で拡大して左目に合わせ複数回シャッターを切りました。展示レンズそのものが、三脚に取り付けられていましたので、そのまま持参のボディと交換して撮影しました。
<撮影データ>カメラ:ソニーα7R、絞り:F1.4開放、シャッタースピード:1/200秒、ISO1000、画像サイズ:L、画質:ExtraFine、三脚使用

≪Mitakon SPEEDMASTER 50mm F0.95≫【写真3】
焦点距離:50mm、最大口径比:F0.95、レンズ構成:7群10枚(EDガラス3枚、LDガラス1枚使用)、最小絞り:F16、ピント合わせ:マニュアル、最短撮影距離:0.5m、絞り羽根:9枚、フィルター径:67mmφ、全長:87mm、重さ:720g、マウント:ソニーFE、価格:120,000円(税別)

◎写してみたら【作例2】
撮影は、135mmF1.4と同様に中一光学の隣にあるマウスコンピュータブースのモデルさんを撮影させてもらいました。限られた時間で、試用するわけですから、撮影は大口径のレンズの特徴を活かすためにすべて絞り開放で行いました。ピントはマニュアルですが、EVF上で拡大して右目に合わせ、複数回シャッターを切ったうちの1枚です。
<撮影データ>カメラ:ソニーα7R、絞り:F0.95開放、シャッタースピード:1/500秒、ISO1000、画像サイズ:L、画質:Extra Fine

2. 操作方法・メンテナンス・修理のポイント

【写真4】キポンのブース(写真をクリックすると大きくして見られます)
【写真5】HandeVision IBELUX 40mm F0.85(写真をクリックすると大きくして見られます)
■KIPON(上海伝視影器材有限公司)

すでにCP+には2013年から出店していて、マウントアダプターの販売では国内ではよく知られているメーカーです。KIPON(キポン)はもともとマウントアダプターの商品名であり、社名は正しくは、上海伝視影器材有限公司(Shanghai Transvision Photographic Equipment Co.) といい、ドイツ企業のIB/Eオプティックスがレンズ設計を担当し、KIPONが製造しHande Vision というブランドで「IBELUX 40mm F0.85」というAPS-Cとマイクロ4/3用の交換レンズを発売しているのです。そしてこの時期から「IBERIT」という新シリーズのレンズを販売開始しました。【写真4】にはKIPONのブースを示しました。ちなみにキポン総経理の張さんは、日本の電機メーカーに10年いて、レンズメーカーを興した人で、自身も写真を撮ります。

≪HandeVision IBELUX 40mm F0.85≫【写真5】
焦点距離:40mm、最大口径比:F0.85、レンズ構成:8群10枚(EDガラス3枚使用【図1】)、最小絞り:F16、ピント合わせ:マニュアル、最短撮影距離:0.5m、絞り羽根:9枚、フィルター径:67mmφ、大きさ:128φ×74mmφ、重さ:1,150g、マウント:NEX-E、Fuji-X、Canon-M、マイクロ4/3、価格:225,000円(税込)

【図1】HandeVision IBELUX 40mm F0.85のレンズ構成(画像をクリックすると大きくして見られます)
【作例3:HandeVision IBELUX 40mm F0.85】絞り:F0.85開放、シャッタースピード:1/125秒、ISO400(写真をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)
【写真6】HandeVision IBERIT 50mmF2.4(写真をクリックすると大きくして見られます)
【作例4:HandeVision IBERIT 50mmF2.4】絞り:F2.5開放、シャッタースピード:1/160秒、ISO1000(写真をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)

◎写してみたら【作例3】
レンズを借りたKIPONのブースはマウスコンピュータブースから離れていますが、中一光学と同じモデルさんを撮影したほうが、描写性能がわかりやすいだろうということになりました。限られた時間のなかで、使用するわけですから、撮影は大口径のレンズの特徴を活かすためにすべて絞り開放で撮影しました。ピントはマニュアルですが、EVF上で拡大して左目に合わせました。このレンズは、一般撮影用レンズとしては最も明るいF0.85と大口径なので、借用するときに張さんから伝えられたのは、絞り開放は柔らかい描写で、モノクロ用にいいということでした。
<撮影データ>カメラ:ルミックスG1、絞り:F0.85開放、シャッタースピード:1/125秒、ISO400、画像サイズ:L、画質:Fine

≪HandeVision IBERIT 50mmF2.4≫【写真6】
焦点距離:50mm、最大口径比:F2.4、画角:46.8度、レンズ構成:6群6枚、絞り値 最小絞り:F16、最短撮影距離:0.6m(ライカM用は0.7m)、絞り羽枚数:6枚、フィルター径:49mmφ、長さ:65mm(ライカM用は55mm)、最大径:58mmφ、重さ:310g(ライカM用は250g)、マウント:LeicaM、SonyFE、Fuji-X、価格:74,500~82,000円

◎写してみたら【作例4】
IBERITシリーズは、絞り開放F2.4で統一され、50mm、75mmの2種の焦点距離が用意されていて、基本的にはライカのNewズマリットMレンズを意識した設定のようです。ただしIBERITシリーズでは、ライカMマウントに加え、ソニーFEマウント、フジXマウントが用意されているのが大きな違いとなります。撮影は、他のレンズと同様にマウスコンピュータのモデルさんをと出向いてみましたが、残念なことに休憩に入っていましたので、急遽MYブックのお姉さんにお願いしました。撮影は絞り開放F2.4で行いました。このレンズとソニーα7Rボディの組み合わせでは、なんとなくレンズが長いように見えますが、光学系が同じなら鏡胴はマウントアダプターの分だけ長くなるのです。これは一眼レフの交換レンズを薄いボディのミラーレス機にマウントアダプターを介して取り付けても、レンズ先端からボディ背面までの寸法は同じであることを意味します。
<撮影データ>カメラ:ソニーα7R、絞り:F2.5開放、シャッタースピード:1/160秒、ISO1000、画像サイズ:L、画質:Extra Fine

■写した結果は

写した結果は、少なくとも、ここに掲載してある写真では良く写っていて、特に大きな問題はないと思います。ただ今回はその判断の詳細はご覧になった人にお任せることにしました。それというのも、1本のレンズを1場面だけ撮影したカットで、レンズ性能をとやかく言えるほどの技量を僕自身は持っていないことです。もちろん、いくつかそれらしいものを見ることはできますが、あまりにも評価サンプル数が少ないのです。しかしモニター上で画素等倍に拡大して見ることにより、良いところも、あれっと思うところを見つけられるかもしれません。
技術的な面で見ると、いずれのレンズもボディとレンズの間を電子接点などで情報のやり取りをしていなく、ミラーレスやM4/3ではAFはなく、マニュアルでのピント合わせであるのです。それだけに、レンズの持つ光学性能そのものが写された画像にダイレクトに反映されてくるのではないかと思うわけです。そしてボディとの情報をやり取りする電子回路を含まない分だけ、コストも安くできるのではないかと考えるのです。

【写真7】ケンコー・トキナーブースのサムヤンレンズコーナー(写真をクリックすると大きくして見られます)

この手法で成功した企業としては韓国のサムヤン(SAMYANG)があります。漢字だと三洋光学工業と書きますが、CCTV用レンズの製造なども手がけ、すでに40年以上の歴史があり、かつての韓国チノンが撤退した後を引き継いだと伝えられています。日本ではケンコー・トキナーが総代理店を務めていて、CP+2016でもケンコー・トキナーブースの奥のほうにサムヤンコーナーがあり、既存の製品に加えいくつかの参考展示品も並んでいました【写真7】。このサムヤンのレンズには、天体分野などシビアな性能が要求されるものに対してもマニアが認めるほどの高性能なものが一部にあるというのは、知る人ぞ知ることです。そして今回のCP+会場で、中国のレンズメーカーを遠巻きにじっと見ているベテランカメラ技術者がいました。その人によると、かつて関西のカメラメーカーの優秀な若手レンズ設計者がサムヤンにいて、いまも活躍しているというのです。それをケンコー・トキナーの担当者と話していたら、「やはりそうですか、どうも日本人の匂いがしていると思っていた」というのです。
そして中一光学のブランド名は“ミタコン”であるわけですが、かつて日本の三竹光学の中国工場をMitakonのブランドを含め引き継いだ結果だというのです。今回ここ紹介した、サムヤン、キポン、中一光学のいずれもが日本に何らかの関係があるわけです。それらの企業がだす交換レンズは、今後どのような展開があるのでしょうか。少なからず日本のユーザー、レンズメーカーにとっても無関係な存在ではないと思うのです。