ライカに始まりライカに終わる · 連載コラム(市川泰憲)
第三十一回「ペンタックスK-3 IIのリアル・レゾリューション・システム」
1. 歴史・機構・蘊蓄(エッセイ・解説)

ペンタックスの一眼レフに撮像素子微動方式の手ブレ補正機構SR(シェイクリダクション)が組み込まれたのは、2006年の「K100D」が最初でした。続いて同年にはSR技術を応用してホコリ取りのダストリダクション機能を搭載したK10D、2013年には光学ローパスフィルター効果を強弱2段階とOFFを選択できる「K-3」を発売してきました。いずれもSR機構の応用とされていますが、今回2015年5月に発売の「K-3 II」では、SR技術をさらに進化させて、撮像板を1画素ずつ動かし、4枚の画像を連続で撮影し、2400万画素×RGBの色情報から1枚の超高精細画像を生成するというのです。ペンタックスではこの技術を“リアル・レゾリューション・システム”と、名付けたのです。
その原理を【図1】に示しましたが、フィルターと撮像素子はオンチップなので、1つの座標に対してRGBGの情報を4回露光し、後から本来の番地データごとに色情報を合成します。この結果、撮影後の画像データは解像力と色再現性が向上し、静止物の撮影時に高精細な画像データが得られるのです。さらに理論的にはモアレや偽色も発生しなく、撮影時には電子シャッターを採用してカメラブレを抑えているというのです。
このあたりの動作原理は、何となく概念は理解できても、正確には僕の理解能力を超えてなかなか把握しにくいものがあります。そしてこのペンタックスK-3 II は、1ショットで4枚撮影して超高精細画像を得るということですが、オリンパスが2月下旬に発売した『オリンパスOM-D E-M5 MarkII』は、1ショットでセンサーを微動させながら8回撮影して、1600万画素の撮像素子から4000万画素相当の画像データを得る「40Mハイレゾショット」と一見するとかなり類似していると思うのです。
この微動といっても、ペンタックスは1画素ピッチで4ショット、オリンパスは1画素のなかで8ショットと異なります。決定的な違いはペンタックスの超高精細画像は処理後の画素数は2400万画素と変わらずそのままであることで、オリンパスは、1600万画素が4000万画素へと増大することが大きな違いです。このあたりは開発思想の違いと考えられます。
●リアル・レゾリューション・システムの効果を見る


撮影にあたっては、HDペンタックスDA35mmF2.8マクロLimited、HDペンタックスDA15mmF4ED AL Limitedの2本のレンズ【写真1】を用意しました。ペンタックスK-3 IIの撮像板はAPS-Cなので、35mmF2.8マクロはフルサイズ換算52.5mm相当の画角に、15mmF4は22.5mm相当の画角になります。この2本をどのように使い分けるか考えましたが、結局チャート的な撮影は35mmF2.8マクロで、ランダムな実写は15mmF4広角でとしました。
今回の「リアル・レゾリューション・システム」での撮影は、三脚使用、リモコン使用が必要条件として示されています【写真2】。もちろんそれに準ずる環境ならいいのでしょうが、いずれにしてもシビアな撮影法が要求されるのです。
まずは、いつものように英国大使館の正面玄関をねらってみました。ピントは、どちらも建物中央上部の紋章に合わせました。


【作例1:通常撮影】HDペンタックスDA 35mmF2.8マクロLimited、絞り優先AE、絞りF5.6・1/500秒、ISO100、AWB、ローパスセレクター:OFF、三脚使用。
11コマ撮影したなかの最も良く見える1コマです。実際は各コマともほとんど同じです。2013年にペンタックスK-3を使って同じ場面で、同じ絞り値F5.6で撮影していますが、この時の画像よりよくなっているような気がします。もっともその時と季節が違い、同じ晴天でも晴明感が異なることなどもありますが、画像処理エンジンが進歩したのかも知れません。
【作例2:リアル・レゾリューション撮影】HDペンタックスDA 35mmF2.8マクロLimited、絞り優先AE、絞りF5.6・1/500秒、ISO100、AWB、三脚使用。
19コマ撮影したなかの1枚です。通常撮影では11コマ撮影して、その結果はほとんど同じでしたが、リアル・レゾリューション撮影ではまったく違うのです。いつもフォーカスポイントの紋章の再現性を見て、最良なカットを選んでいるのですが、一部のリアル・レゾリューション撮影では紋章や屋根の傾斜の部分が、モアレのようなジャギーが発生しているのです。どうやら、風や地面の振動などによりわずかでもカメラブレがあるとこのような現象が現れるようです。結局、紋章と屋根の傾斜部分にモアレの発生していないカットを選んだのですが、かなり繊細な撮影条件が要求されることがわかりました。ただし、紋章とその壁面を通常撮影と比較してみると明らかに画質が向上していることがわかります。これがリアル・レゾリューション・システムの成果だと判断できます。
そして画面左中央、避雷針の周辺の樹木を見てください。樹木の葉が網の目のようにモアレ状に見えるのがわかります。やはり、マルチショットであるために、露光中に葉がざわつくとこのような現象が発生するのでしょうが、リアル・レゾリューション・システムは、建築物等不動の被写体には使えますが、草や樹木を写しこむ風景写真には使えないことがわかります。一部にそれも表現としておもしろいという声が聞こえてきそうですが、これはまったく別のことです。
2. 操作方法・メンテナンス・修理のポイント


【作例3:リアル・レゾリューション撮影】HDペンタックスDA 35mmF2.8マクロLimited、絞り優先AE、絞りF5.6・1/200秒、ISO200、AWB、三脚使用。
そこであえて走行する車を被写体としてリアル・レゾリューション撮影でねらってみました。このカットで特徴的なのは、動く車が1台そのままで写っていることです。同じようにマルチショットを採用したオリンパスの40Mハイレゾショットでは、車がみごと8回分少しずつずれて重ね合わせて写っていたのですが、ペンタックスのリアル・レゾリューション・システムでは、4回露光しているのに、車は大きく変形することもなく、多重露光されたようには見えないのです。それでも子細に見ていくと、ナンバーや文字などは流れていて判読は不可能なのです。また道路の中央分離帯のステンレスらしき柵の光沢感などはなかなかの描写です。
ただしここでも、木々の葉や小枝の部分はモアレらしきジャギーが発生しています。先ほどの英国大使館の場面では、画素等倍に拡大したあたりで確認できましたが、こちらのシーンではA4より少し大きくしたぐらいでも簡単に確認できます。やはり、動く被写体には使えないわけです。
【作例4:通常撮影】HDペンタックスDA 35mmF2.8マクロLimited、絞り優先AE、絞りF8・1/80秒、ISO200、写真用蛍光灯トップライト照明、AWB、三脚使用、ライブビュー、リモコンレリーズ。
動く被写体に使えないということで、あれこれ考えた結果、わが家のデスクトップスタジオでの撮影を試みました。被写体は、いつも使っている小道具ですが、コルクボードの上に、ビールの洋書を置き、その上にコダック35RFカメラを配し、さらにマイクロフィルム用の解像力チャートを2枚組み合わせてカメラの上に置きました。
いつもの撮影では、洋書の文字を見て解像度、深度などを知るようにしていますが、カメラの刻印で解像感を、金属の質感で階調再現を見ようというわけです。
撮影にあたって、まず照明を写真用蛍光灯ランプとしましたが、露光がマルチショットであるために、ストロボのような瞬間閃光は使えません。また最大限ブレを防止するために三脚は“HUSKY Quick Set”を使いました。この三脚はフィルムカメラの時代には大型で重量があるために8×10カメラ用に使われていたもので、デジタルになり、手ブレ補正機構があることなどから、このハスキーはあまりにも重いのでお払い箱寸前になっていたのですが、デジタルはライブビューの拡大でピント合わせが可能になると、フィルムカメラ時代には気づかなかったブレが目につくようになったのです。そして、そのブレに耐えられる三脚はと、所有のものをあれこれ探してみたら、超重量級のハスキーがどうにか使えることがわかりました。撮影は、蛍光灯4灯のトップライトですが、絞りF8に絞ってもISO200で1/80秒ということなのでまずまずの照度だと思います。
撮影した結果をご覧ください、画面全体でその描写を判断するのは難しいですが、解像力チャートを拡大して解読すると0.13という数値まで解像しているのがわかります。A3ノビ光沢にノートリミングでプリントして見ると、個人的には通常撮影でも十分な画質と思うのです。

【作例5:リアル・レゾリューション撮影】HDペンタックスDA 35mmF2.8マクロLimited、絞り優先AE、F8・1/80秒、写真用蛍光灯トップライト照明、ISO200、AWB、三脚使用、ライブビュー、リモコンレリーズ。
同じシーンをまったくそのままにして、リアル・レゾリューション・システムで撮影したのが【作例5】です。8カットぐらい同じ条件でシャッターを切りましたが、屋外撮影のときとまったく異なり、すべてのコマがモアレの発生もなくベストで撮影されていました。条件さえ整えればとも思いますが、リアル・レゾリューション撮影は、商品や微細な資料、それもまったく動かないものに有効であることがわかります。
そして解像力チャートのもっとも細かい部分を拡大して驚きました。なんと最小の0.1mmピッチまで解像しているのです。被写体、照明、カメラ、レンズ、ISO感度、絞り値などがまったく同じで、変えたのはリアル・レゾリューション・システムモードで撮影したことだけです。この結果が、解像度を3段階近くアップしているのですから、素晴らしい結果です。
撮影データを、A3ノビ光沢にプリントして見ると、肉眼でもチャートの微細部分の解像度の差は、目を凝らして見るとどうにか認識できます。このあたりが分解して見えるかどうかは個人の視力の差にもよりますので、難しいところです。見える人には見える、見えない人には見えないということになりますが、ルーペなどを使えば十分に認識できます。また、チャート左脇のコダック35RFカメラのレンズ鏡筒部分の質感も明らかに増していることがわかります。この部分を含めてA2相当に拡大プリントすると、さらに明確に違いが分かるようになりました。いずれにしても、半切、全紙レベルへの拡大プリントの至近ではその相違は明確に判断できますが、一般的な鑑賞距離ですと、わかる人には分かる、わからない人には分からないというレベルであることも現実です。


【作例6:通常撮影】HDペンタックスDA 15mmF4 ED AL Limited、プログラムAE、絞りF4・1/50秒、+0.7EV、ISO200、AWB、ローパスセレクター:OFF、手持ち撮影。
焦点距離15mmというと、APS-CのK-3 IIでは22.5mm相当の画角となり超広角レンズになります。
今回のK-3 IIの使用では、早々にリアル・レゾリューション・システムの結果がでましたので、せっかくの超広角レンズで少し遊んでみようとなり、6月の2-3日に国際見本市展示場で開かれた”PHOTONEXT” へ持参し、さまざまな場面を記録しました。そのときお昼をご一緒した、写真仲間の神原武昌さんの顔をアップで撮影させてもらいました。絞り開放での近接ですが、解像も高く、前景・背景のボケも自然です。もともと神原さんはペンタックスK-3のユーザーであり、ペンタックスは良く写るよね、とか話しながら撮影したうちの1枚です。後日、ご本人には撮影データを差し上げましたが、大変満足されていました。まずは、拡大してご覧ください。
【作例7:通常撮影】HDペンタックスDA 15mmF4 ED AL LimitedプログラムAE、絞りF7.1・1/250秒、-0.7EV、ISO200、AWB、ローパスセレクター:OFF、手持ち撮影。
せっかくの超広角レンズですので、何か効果的なカットはないだろうかと探したのが、新宿西口地下広場の開口部から夕闇迫る時間に高層ビルをねらってみました。中央の白いビルの背後に日が沈むところで、見た目には美しい逆光なので、マイナスの露出補正を加えてみましたが、残念ながら見た目のままには写りませんでした。ピントは画面中央下右の樹木の葉の部分に合わせましたが、焦点距離が15mmと短く、絞りF7.1であることから、背景のビルも含めて深度内に十分入っているようで、必要十分な解像特性だと思いました。
●高画質マルチショットの今後
オリンパスに引き続き、ペンタックスの高画質処理システムカメラの使用を終えて、今回は実に簡単に結論がでたので、まずはほっとしました。というのも、あまりに結果が微妙では困るのです。そこで思ったことは、もしオリンパスOM-D E-M5 MarkIIの“40Mハイレゾショット”で、今回のペンタックス同様にマイクロフィルムのチャートを写していたらもう少し明快な結果が出たのではないかと思ったのです。それというのも、言い訳するわけではありませんが、オリンパスの発表と同時にとある風景写真家の先生が、「すごい!10万円のデジタルカメラで4000万画素の風景写真が撮れるのだ」と書かれているのを見て、え! ハイレゾショットの撮像原理からいってそれはむりではないでしょうかということで、いつもの英国大使館の正面玄関を撮って、建物は撮影できても、草木は風に動いて使えないという結論がでて、自然界を対象にした風景写真、幅広くいえばネイチャーフォトにはやはり使えないという確証を得て、それで安心してしまったのです。
ところが、今回のペンタックスでテストチャートを写した場面から明らかなように、写り込んだ通常被写体だけからその違いを認識するのにはかなりの困難が伴うのです。もし、オリンパスで解像力チャートを撮影していたら、もう少し別な形で解像限界をペンタックスのように数値表現できたのではないだろうかと悔やまれるわけです。ただどちらも高画質処理の成果は十分に確認できたわけですから、まずまずでした。いずれにしましても、両機種ともマルチショットであるために静止物しかねらえないのも事実です。その用途は静止物である商品の撮影、標本撮影など微細な再現を必要とされる分野では十分に有効なものだと思うのです。
しかし、過去の歴史で明らかなように、マルチショット、スキャニングショットの技術は、あくまでも派生の技術であって、最終的にはワンショットであるのが本来なわけです。ペンタックスもオリンパスも基本撮影モードの部分ではもともと十分な画質であるので、その部分を進化させるような技術であると、さらに利用価値は高まると考える次第です。
(2015.06)
