ライカに始まりライカに終わる · 連載コラム(市川泰憲)
第二十八回「オリンパスOM-D E-M5 MarkIIの40Mハイレゾショット」
1. 歴史・機構・蘊蓄(エッセイ・解説)



「40Mハイレゾショット」搭載のオリンパスOM-D E-M5 MarkII【写真1】は、いわゆるマイクロフォーサーズ規格のミラーレス一眼です。オリンパスのレンズ交換式カメラはマイクロフォーサーズ規格を採用していますが、OM-D E-M5はそのなかでもフラッグシップ的な存在で、かなり高級感を持った作りがなされています。それらは、まず外装に表れており、ボディハウジングは触るとひやっとする金属ダイキャストで、少し粗めのつや消し黒色ハンマートン塗装がなされ、さらにダイヤルやツマミ類は金属削り出しで黒色アルマイト処理がなされ、必要に応じてローレット加工やダイヤカットが施されており、"カメラは金属、精密機械です"という印象を前面に打ち出したボディです。かなり機械好きのカメラファンをこそぐる仕上げなのです。
今回撮影に使ったレンズは「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mmF2.8 PRO」ですが、このレンズもまさにメカメカの仕上げで、一連のM.ZUIKO DIGITAL PROシリーズは、ズーミングやフォーカシングなどの鏡胴のローレット刻み部分は、ゴムや樹脂でなく、金属そのものにダブルでローレットが刻まれており、見たところ樹脂部品はほとんどなく、これでどうだ!というばかりの仕上げです。このほか、防塵・防滴仕様など、ハードな撮影に対しても十分配慮されたボディなのです【写真2】。
というわけで、いくつOM-D E-M5 MarkIIのこだわりをあげていってもきりはありません。以下、注目の「40Mハイレゾショット」について見ていきましょう。まずは、ハイレゾショットの原理です。【写真3】にはハイレゾショットの原理図をオリンパスのHPから拝借し、僕なりの計算と図面を追加しました。この図からおわかりのように、1ショットの同じ場面の1ピクセルの中を1/2ピクセルずつ動かしながら8回シャッターを切って、1600万画素の撮像素子から約4000万画素のデータを生成するというのです。8カットなら単純に1600万の8倍になるかというとそうではなく、1/2ピクセルずつオーバーラップして写しこんでいくので、約2.5倍の画素数になるというのです。このあたりどのように計算していいのか専門家ではありませんのでわかりませんが、オリンパスの示したデータから計算すると、1画素あたりのピッチは3.7μmとなります。この1画素当たりの寸法は、実画面サイズと画素数から算出しますが、オリンパスは4/3LiveMOS撮像素子なので、このような値となります。基本的には、画素ピッチが大きいほど高感度に強くなり、画素ピッチが細かいほど、高感度は苦手となるのですが、実際は画像処理エンジンの性能などにも依存してくるので、単純に数値の大小だけで判断するわけにはいきません。
感度もそうですが、画素数の多少などが、画質に大きく影響することはいうまでもありませんが、画素数だけが写真画質を左右するとはいいきれないのです。そのあたりを念頭に置いて、実際の撮影による画質評価を試みてみました。
2. 操作方法・メンテナンス・修理のポイント
●撮影、そしてプリント
デジタルカメラの画質評価法に対しては、さまざまな考え方があると思いますが、僕自身は撮影したデータを、いつも同じモニター画面で微細に画素等倍で見ることと、実際にプリントして見ることが大切だと思うのです。いつもは、自宅のプリンターで可能な限りの大きさのA3ノビ(写真サイズ約半切相当)に引伸ばして見るようにしていますが、違うカメラ同士やクラシックレンズの画質を見る場合にはこのA3ノビサイズレベルのプリントでもよいこともありますが。最近では、ニコンD800シリーズ、ソニーα7Rのような3600万画素の高画素機の登場で、モニター画面での拡大に加え、A3ノビプリントでの観察では十分に性能を見きれない要素が高くなってきました。幸いなことに、僕の友人がA0幅までの拡大可能なインクジェットプリンターを持っていたので、必要に応じて協力を願いお願いしているのです。
そこで、実際に大型プリントを作成した時のメリットを考えてみました。1)モニターによる部分拡大では解像感、収差の発生など画面全体の均質感が見渡すことができない。2)撮影したデジタルカメラによる写真の最終鑑賞形態がプリントならば、画質はプリンターの能力にも依存するので、プリントで判断するのが現実的であることなどです。それでは以下撮影した結果から、オリンパスOM-D E-M5 MarkIIの4000万画素ハイレゾショットの実力を見てみましょう。撮影場所は、いつもの英国大使館正面玄関前です。いずれも三脚使用のため、手ブレ補正モードはOFFで撮影です。なお撮影時の焦点距離は、35mm判の35mm画角に相当する18mmに設定しました。




【作例1:通常撮影】4608×3456ピクセル、絞りF5.6・1/1250秒、ISO200。
プリントはA3ノビとA0で行いました。A3ノビプリントは天地約322mm、横幅は、4/3素子の縦横比は4:3なので約430mmとなります。A0プリントは天地を1000mm(1m)に設定しましたので、横幅は1,333mm(約1.33m)となり、通常撮影は1600万画素なので、A3ノビの場合のプリント解像度は約270dpi、A0プリントは約88dpiとなります。【作例1】の撮影データは通常撮影をリサイズしないで画素等倍まで拡大して見られるようにJPEGデータをそのままアップしてありますので、ご覧ください(以下同じです)。
【作例2:ハイレゾショット】7296×5472ピクセル、絞りF5.6・1/1250秒、ISO200。
プリントはA3ノビと、A0で行いました。作例1と同様に、A3ノビは約天地322mm×横430mm、A0プリントは天地を1000mm(1m)に設定しました。ハイレゾショットは公称約4000万画素ですが、実際は39,923,712画素となり、A3ノビの場合のプリント解像度は約430dpi、A0プリントでは約139dpiとなります。掲載の画像は撮影時そのままのJPEGデータです。
【作例3:フォトショップで画素伸ばし】7296×5472ピクセル、絞りF5.6・1/1250秒、ISO200。掲載の画像はフォトショップで解像度変更したそのままのJPEGデータです。
フォトショップによる画素伸ばし(解像度変換)は、もともと画素数が少ないデジタルカメラやデジタル画像データから大伸ばしをする時に、十分な解像度を持たせてプリントするとなめらかなプリントが得られるということで、昔から一部では知られていたプリントテクニックです。フォトショップによる解像度の変更には、バイキュービック法、ニアレストネイバー法、バイリニア法などがありますが、写真には最も高画質が得られる、バイキュービック法を使うようにします。さらにバイキュービック法には拡大用とグラデーション重視とありますが、今回は、グラデーション重視に設定し、縦横比を変えないでハイレゾショットと同じように横を7296ピクセルにして、その画質差を見てみようというわけです。
プリントはA3ノビと、A0で行いました。作例1と同様に、A3ノビは約天地322mm×横430mm、A0プリントは天地を1000mm(1m)に設定しました。フォトショップで画素伸ばしした場合にはハイレゾショットと同様に実際は39,923,712画素となり、A3ノビの場合のプリント解像度は約430dpi、A0プリントでは約139dpiとなります。【写真4】にはA0プリントの中央下部にA3ノビプリントを置いて、撮影してみました。単なる大きさ比較なので、ライティングのムラ、反射などはご容赦ください。
●A3ノビとA0プリントの結果から
まず≪A3ノビプリント≫を見てみましょう。いわゆる半切・全紙くらいのサイズのプリントを鑑賞する距離からは、見る人の視力にもよりますが、まず3枚の画質差はわかりません。撮影場面は、建造物は不動なのですが、ハイレゾショットでは、中央の英国国旗が風にたなびいて、コマ撮りされたような描写がすぐわかりますが、周辺の木などは動いていても、目を凝らしてよく見ないとほとんどわかりません。フォーカスポイントはいずれのカットも建物中央の上部のエンブレムです。このエンブレムと、その周辺の壁の解像感、コントラスト等をよく見ると、何となくハイレゾショットはコントラストがあるかなという感じがします。A3ノビに対して解像度的には通常撮影が約270dpi、ハイレゾショットとフォトショップの画素伸ばしのカットが約430dpiということで、どちらもインクジェットプリンターが必要とする解像度を十分にクリアしています。写真的に画像がむりなく見える解像度の下限としては、僕の個人的な経験ではプリントの絵柄にもよりますが、120dpiを超えたあたりでインクジェットプリンターは、一般的には視覚的にジャギーのないプリントが得られます。もっとも、今回の3つのファイルとも、解像度的には270dpiと430dpiと視覚的なプリントの解像度限界を十分にカバーしていることです。それではプリントが120dpiを超えていればすべて同じような画質に見えるかというとそうではなく、専門家にお伺いしたところ、インクジェットプリンターの場合は、プリント解像度が高いほど細かいところまで見え、約600~700dpiぐらいまで、個人差はあっても人間の目は感覚的に解像感の違いを認識できるのだというのです。
引き続き≪A0プリント≫を見てみました。撮影場面は、建造物は不動なのですが、ハイレゾショットはスローシャッターのようなものなので、中央のユニオンジャック旗は当然のこととして、周辺の木などもここまで大きくすると、わずかな木の葉や木の枝などの動きも気になるのです。特に、建物の左右にある剪定されたモミの木の枝なども、モアレのような気になるパターンが動きにより生成されています。この部分は大きく伸ばさなくては認識できないレベルですが、基本的には風景写真にはハイレゾショットを使えないということになります。もっともこの写真のように中央の旗だけ動いている画面を意図的に作り出すこともできるわけですから、プリント拡大率と組み合わせれば、独自な写真表現を作り出すこともできるわけです。




とはいっても、ハイレゾショットの撮影にあたっては、手持ち撮影は不可で、しっかりと三脚を立てて、カメラのブレが止まった所でシャッターを切らなくてはならないことです。カメラにはカメラ自体がぶれているかどうかを表すインジケーターがあり、静止した状態でシャッターを切って処理を終えるのに1秒弱を必要とします。また自然界にある、草木が完全に停止した状態でスローシャッターを切り、被写体を静止させることは、ほとんど不可能に近いことで、草花のクローズアップ撮影をしたことがある方なら、どなたでもわかることです。したがって『オリンパスOM-D E-M5 MarkII』のハイレゾショットは、スタジオ内など室内での静物の撮影に向くモードであることがわかります。そこであえて、三脚に載せて、走ってくる車を撮影したのが【写真5】ですが、静止画に向くことは一目瞭然です。
ではハイレゾショット4000万画素と通常撮影1600万画素と、どのくらいの画質差があるかというとかなり微妙です。今回のA3ノビプリントでは一般的な鑑賞距離では、個人差もあるでしょうが、なかなかその差はわかりませんでした。そこで、可能な限り大きなプリントということで、A0にプリントしてみましたが、目を近づけて見ると『40Mハイレゾショット>通常撮影でフォトショップで画素伸ばし>通常撮影』いうような関係を見出すことができるのです。
むしろ、今回の比較撮影では、画面サイズでは4/3というハンディを負いながら、思いのほか通常撮影の1600万画素のプリントがかなりよいのです。これは、プリンターのスムージング機能なども効果的に働いた結果だとは思うのですが、撮影したカメラの元データを単純にモニター上で拡大して見たのでは写真本来の画質はわからないというわけです。
かつてフィルムカメラの画質では、画面サイズ、フィルムの解像力、撮影レンズの解像力、引伸機(引伸ばしレンズ)の解像力、プリント拡大率などが大きく影響するとはよく知られたことですが、デジタルカメラの場合もほぼ同様ですが、実はデジタルカメラでは満たされた撮影条件では画面サイズ以前に撮像素子の画素数の能力がいかんなく発揮され、さらに同じ画素数でもBayer方式のように画素ユニット記録方式なのか、Foveonのような垂直記録方式なのかなど記録方式によっても画質が異なることもよく知られています。
デジタルカメラの高画素化は、35mm判フルサイズで3600万画素のニコンD810、ソニーα7Rに対し、5000万画素のキヤノンEOS 5Ds/sRがあります。そこにオリンパスの4000万画素ハイレゾショットが加わったのです。しかし今回の比較でもわかるように、実際のプリントにするとその差は判別しにくくなるのも事実です。そこでプリンターファクターを加えるとどのくらいの画像になるのか、現物A0プリントのエンブレム部分をマクロレンズを使い再撮影して示したのが【写真6・7・8】です。写真6は通常撮影1600万画素(プリント解像度88dpi)、写真7は40Mハイレゾショット(プリント解像度139dpi)、写真8はフォトショップリサイズ(プリント解像度139dpi)のプリントです。もちろん画質が十分に再現されているとは言いませんが、ここまで大きく伸ばしても、その差は微妙であることはおわかりいただけたと思います。そして、データだけでディスプレー上だけでデジタルカメラの画質を判断する難しさがここにあります。
そして何よりも、A0という大判の横1.3m×縦1mぐらいに引伸ばすチャンスというか必然性がプロを含め一般ユーザーにどれだけあるか、ということになるのです。デジタルカメラには、適切な拡大率に対しての画素数と画面サイズの関係があると思うのです。オリンパスOM-D E-M5 MarkIIの場合には、1600万という画素数でも必要十分な画質だと改めて認識させられました。
(2015.4)
