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ライカに始まりライカに終わる · 連載コラム(市川泰憲)

第二十三回「AF-Sニッコール58mmF1.4GとAiノクトニッコール58mmF1.2S」

コーナー名
ライカに始まりライカに終わる
著者
市川泰憲(写真技術研究家、日本カメラ博物館)
対象機材・テーマ
AF-Sニッコール58mmF1.4GとAiノクトニッコール58mmF1.2S
概要・導入
しかし何で、いまAF-Sニッコール58mmF1.4Gとノクトニッコール58mmF1.2の比較をと思われるかもしれませんが、これにはちょっとした理由があるのです。札幌には知る人ぞ知る非公開の『IMAIコレクション』というカメラの館が時計台の近くにあるのです。実は、数年前から写真家の田中長徳さんと僕はイマイコレクションに新しくカメラやレンズが追加されたり整理されたりすると、見学のために通っているのです。このイマイコレクションの収蔵規模は半端ではなく、ウインドウケースの長さが総延長180m近いというのです。しかもケースには少なくとも3段は棚があるわけですから、すべての展示品を数える勇気も元気もありま…

1. 歴史・機構・蘊蓄(エッセイ・解説)

しかし何で、いまAF-Sニッコール58mmF1.4Gとノクトニッコール58mmF1.2の比較をと思われるかもしれませんが、これにはちょっとした理由があるのです。札幌には知る人ぞ知る非公開の『IMAIコレクション』というカメラの館が時計台の近くにあるのです。実は、数年前から写真家の田中長徳さんと僕はイマイコレクションに新しくカメラやレンズが追加されたり整理されたりすると、見学のために通っているのです。このイマイコレクションの収蔵規模は半端ではなく、ウインドウケースの長さが総延長180m近いというのです。しかもケースには少なくとも3段は棚があるわけですから、すべての展示品を数える勇気も元気もありませんし、正直全収蔵数はわかりません。ご自慢は、ニコン、ライカ、ハッセル、リンホフなどを始めとして、ほとんどの各社機種があるという具合です。
特にニコンは、ニコンにもないという製品が陳列されており、ニコンI型から、果てはニコングッズ、ニコンせんべい、ニコン羊羹までを収集という徹底したものです。先日も、東京のG出版社が、複数のカメラマン・スタッフ・ライター共々連泊で訪れて、こちらのレンズ機材を撮影していき、1冊のニコンレンズの本を作ってしまったということですから、その規模の一端をおわかりいただけると思います。
そして、そのオーナーの今井貞男さんと話していたら『最近のニコンはいかん!』というのです。なぜですかと、聞くと、僕らが訪れる前日に購入した“AF-Sニッコール58mmF1.4G”がけしからんというのです。なぜけしからんかと聞くと、ノクトニッコールの再来だというので購入してみたらまったく違うというのです。
今井さんは、ニコンDfのレンズキットにAF-Sニッコール50mmF1.8G(Special Edition)が付いていたのを取り外しAF-Sニッコール58mmF1.4Gを取り付けて操作していたのですが、どうやら手に持った時の最初の感触が気に入らなかったようです。つまりDfのキットレンズ50mmF1.8と、このAF-S58mmF1.4Gの鏡胴がエンジニアプラスチック製であり、質感が同じだというのが、ご機嫌を損ねた理由のようなのです。今井さんいわく、ノクトニッコールの再来だというので購入したら手に持った時の感触がまったく違うというのです。さてさて難しいところです。カメラ部材のエンジニアプラスチック化は今に始まったわけではありませんが、ボディ本体は金属の成形技術が進歩して、高級な一眼レフや一部コンパクト機に金属材料が戻ってきたのは、ご存じのとおりです。今井さんによると、オーディオもそうだけど、ある程度重量というか質量は趣味性の高い高級機には大切なスペックだというのです。当然、高級レンズの価格にはそれに見合う重量感が大切だというのです。
確かに最近は、高級・高価格の標準レンズがカール・ツァイスとシグマから発売され話題を呼んでいますが、今井さんはあくまでもノクトニッコールと比較してどうかというのです。それでは実際はどうなのだろうと、それぞれの仕様を比較したのが、【図1】です。うーん、確かにこれを見る限り、重さの違いはあっても、今井さんのいうところの、手に持った時の質感や金属の熱伝導の感触はわかりません。

【図1】今回、取り上げた3本のニッコールレンズと、参考までにシグマ、カール・ツァイスの高級タイプ標準レンズもとりあげました。Aiノクトニッコール58mmF1.2Sの価格は発売当時のものです。(図をクリックすると大きく見られます)

でもレンズは写真を撮ってなんぼのもの、重さではないでしょうとか、あれやこれやと話し合った後、結局は撮り比べてみればいいということになったのです。AF-S58mmF1.4Gは、ニコンのニュースレリーズによれば“夜景撮影時などに、点像の周辺に鳥が羽を広げたような像が写る現象「サジタルコマフレア」の発生を極限まで抑えることで、開放絞りでも画面周辺部まで「点光源」を、ゆがみやにじみのない「点」として描写できる点像再現性を発揮します。”となっており、やはりノクトをかなり意識しており、さらにボケ味が美しいというのです。

【写真1】撮影に用いた機材。左から、AF-Sニッコール58mmF1.4Gを装着したニコンDf、ノクトニッコール58mmF1.2、AF-Sニッコール50mmF1.8G(Special Edition)(画像をクリックすると大きく見られます)

さっそく機材をそろえようとなりました。ボディはニコンDf、レンズは購入したばかりのAF-Sニッコール58mmF1.4Gとノクトニッコール58mmF1.2、さらにせっかくだからニコンDfのキットレンズ50mmF1.8も加えて比較してみましょうとなったのです【写真1】。
急きょ決まったことですので、いずれの機材もIMAIコレクションの収蔵品を使うわけです。どこかの雑誌では、撮影に使った機材が、どこの所有であるか明記しないで掲載したようですが、そんなことやって何のメリットがあるのでしょう。所有者の印象を悪くするだけです。無償で機材提供した、コレクターの心理がわからないのは悲しいことです。少し脇道にそれてしまいました。
このIMAIコレクションには、ノクトニッコール58mmF1.2は2本あるのです。それも単に同じものが2本というわけではなく、1977年発売の初代「Aiノクトニッコール58mm F1.2」と、1982年に第2世代として発売された「Aiノクトニッコール58mm F1.2 S」があるのです。ここでは最新のAF-Sニッコール58mmF1.4Gと比較するわけですから、新しいほうのAiノクトニッコール58mm F1.2 Sを使うことにしました。
撮影は、58mmF1.4とノクトニッコールの特徴を活かして、本来は夜景の撮影というのもあるのですが、夜景での点光源撮影は確かに天体写真分野の星野写真のような描写の一面を知るのには有効ですが、札幌の夜は、長徳さんは3泊するのですが、僕は1晩しかなく、一般的な被写体で画質がわかるところということで、翌日、赤レンガの旧道庁を撮ろうとなりました。

2. 操作方法・メンテナンス・修理のポイント

■いざ比較撮影へ
【写真2】札幌・旧道庁前広場にて。右から、今井貞男さん、田中長徳さん、そして僕。三脚はリンホフ、雲台はクイックセット(画像をクリックすると大きく見られます)

翌日、午前中に機材の準備も完了し、時計台近くのIMAIコレクションから旧道庁までゆっくり歩いて10分という距離ですから全員徒歩で現場に向かいました。撮影に当たっては、旧道庁にニコンDfを正対させて建物がシンメトリーに見える位置に三脚を固定し撮影準備完了です。大人4人がそれぞれ作業を分担して通路の真ん中で行いましたが、観光客の皆さん不思議とよけて歩いてくれるのです。長徳さんは、何となくわれわれがプロのように見えるのでしょうね、というのです【写真2】。その観光客も海外からの方が多く、かなり割合で中国からの人だと感じました。その中で、中国人らしい親子連れの若い女性が、われわれの撮影作業をじっと見ていて、10分ぐらいの撮影が終えると、コンパクトカメラを持って近づいてきて、旧道庁を背景に記念写真を撮影してほしいというのです。そこは、長徳さんにお願いしたのですが、何やらにこやかに話しながら、皆さんを並べてシャッターを切っていました。長徳さんは、中国語も話すのですか?と伺ったところ、いえ英語で話しましたということで、われわれの撮影を含め短時間のうちにすべて完了となりました。
撮影手順は、三脚に取り付けたニコンDfにまずAF-Sニッコール50mmF1.8Gでアングルを決めて、同じポジションでAF-Sニッコール58mmF1.4G、Aiノクトニッコール58mmF1.2Sの順でシャッターを切りました。フォーカスポイントは、建物中央銅板屋根の下部としました。2本のAF-SレンズはAFで、ノクトニッコールはMFレンズですのでライブビューで最大限拡大して背面液晶でピント合わせしました。三脚は軽量なアルミU字型ポールのリンホフ、雲台はハスキーのクイックセットです。いずれも大判カメラ用ですが、持ち運びに便利なようにとリンホフ三脚を選んだのです。それでは撮影結果を報告しましょう。旧道庁の撮影は、いずれも絞りF5.6としました。F5.6という絞り値は、ほとんどの単焦点レンズなら良像が得られるポイントですが、今回に限らず僕のこのようなシーン(英国大使館正面玄関)の撮影では、いつも絞りはF5.6で撮影しています。

【作例1:AF-Sニッコール50mmF1.8G】AF、絞りF5.6・1/200秒、ISO100、AWB(画像をクリックすると画素等倍まで大きく見られます)
【作例2:AF-Sニッコール58mmF1.4G】AF、絞りF5.6・1/200秒、ISO100、AWB(画像をクリックすると画素等倍まで大きく見られます)

【作例1】AF-Sニッコール50mmF1.8Gの描写です。フォーカス部分のレンガの描写を見るとなかなかです。さらに左背面のビルの横縞を見ると、かすかに解像しています。ただしこれは、画素等倍に拡大した時のモニター上での描写特性であり、現実的なプリントとしてA3ノビにプリントしたときは、左背面のビルの横縞は目を凝らして見るか、ルーペで覗いてみるとわずかに分離しているのがわかりますが、明視(約25cm)の距離では個人差もあるでしょうが、どうにか判別できる解像です。
【作例2】AF-Sニッコール58mmF1.4Gの描写ですが、フォーカス部分のレンガの描写を見るとなかなかです。さらに左背面のビルの横縞を見ると、ほとんど解像していません。もちろん複数枚撮影したなかの最も良好なものを選択してあるのはいうまでもありません。撮影に問題があるとは思えません。もちろんこれは、画素等倍に拡大した時のモニター上での描写特性であり、現実的なプリントとしてA3ノビにプリントしたときには、左背面のビルの横縞は目を凝らして見ても分離していないのがわかりますが、明視の距離でも同様です。もちろん、A3ノビの作品を見るためには、明視の距離から見ることは非現実的で、もう少し下がってみるのが通常です。

【作例3:Aiノクトニッコール58mmF1.2S】MF、絞りF5.6・1/200秒、ISO100、AWB(画像をクリックすると画素等倍まで大きく見られます)
【作例4:AF-Sニッコール58mmF1.4G】AF、絞りF1.4・1/4000秒、ISO100、AWB(画像をクリックすると画素等倍まで大きく見られます)

【作例3】Aiノクトニッコール58mmF1.2Sの描写です。フォーカス部分のレンガの描写を見るとまずまずです。ところが左背面のビルの横縞を見ると、3本のレンズの中では最も解像しています。ただしこれは、画素等倍に拡大した時のモニター上での描写特性であり、現実的なプリントとしてA3ノビにプリントしたときは、目を凝らして見るか、ルーペで覗いてみるとやはり十分に分離しているのがわかりますが、明視の距離では個人差もあるでしょうが、どうにか判別できる解像です。ノクトニッコール58mmF1.2の登場した時期のニコンの技術資料によると、画質的には絞り開放F1.2が最もよく、絞り込むと球面レンズのほうがよくなるという記述もあるのです。今回はF5.6に絞っての撮影ですので、ノクトニッコールとしてはベストの力ではないわけです。

【作例5:AF-Sニッコール58mmF1.4G】AF、絞りF1.4・1/2000秒、ISO100、AWB(画像をクリックすると画素等倍まで大きく見られます)
【作例6:AF-Sニッコール58mmF1.4G】AF、絞りF1.4・1/1000秒、ISO100、AWB(画像をクリックすると画素等倍まで大きく見られます)

【作例4】AF-Sニッコール58mmF1.4Gを、絞りF1.4開放で、AF手持ち撮影してみました。ピントは手前の花に合わせました。背後左端に口径食の影響によりわずかな方向性を感じさせるボケが見えますが、レンズが球面である以上は避けがたい問題で、ニュースレリーズに記述された「ピント面から遠ざかるにつれてなだらかに変化する美しいボケ味により、画面に自然な奥行き感をもたせることで被写体を印象的に撮影できます」というのも納得できる解説です。
【作例5】AF-Sニッコール58mmF1.4Gを、絞りF1.4開放で、縦位置でAF手持ち撮影です。ピントを合わせた場所は、画面中央の木ですが、この距離だと、意外に58mmF1.4絞り開放F1.4の深度は幅があるなということを実感しました。前ボケ、後ボケとも特段クセがなく柔らかく描写されていることがよくわかります。
ところで、あるところで気になった記述を見かけたので、ひとこと。それは、AF-Sニッコール58mmF1.4Gはノクトニッコールの58mmF1.2より開放F値をF1.4と暗くすることにより、絞り開放での画質の向上を図っているとかいうのをどこかで見ましたが、実はニコンFマウントは1988年のAF化にともないCPU方式の電気信号ピンをレンズ側マウント内側に植設したときから、F1.2という大口径レンズはあきらめたのです。もちろんAF信号ピンのないAiノクトニッコール58mmF1.2Sはマニュアルで使うわけですから最新ボディにも当然のこととして取りつくのですが、AFレンズになってニコンFマウントにF1.2という大口径レンズは存在しないのです。もちろんデジタルという高感度の時代にあって、低輝度下で撮影するときに最大口径F1.2とF1.4の間にどれだけ差があるのかは、いわずもがなであるわけです。
【作例6】AF-Sニッコール58mmF1.4Gを、絞りF1.4開放で、最近接に近い距離で、AF手持ちで今井さんの横顔をアップで撮影してみました。近接しているので、深度は浅くなっていますが、アウトフォーカスした部分の髪の毛の柔らかな描出、背景のボケなど、好感もてる描写です。

■撮影を終えて

札幌という地で、急に思い立っての撮影でしたが、まずまずの結果がでました。もちろんAiノクトニッコール58mmF1.2Sであり、ノクトニッコールを意識してサジタルコマフレアの発生を極限まで抑えたというAF-Sニッコール58mmF1.4Gなのですから、夜景撮影でも試してみたかったです。しかし写した結果からすると、面白い事実が判明しました。一部場面では、解像力的に見るとAF-Sニッコール58mmF1.4G<AF-Sニッコール50mmF1.8G<Aiノクトニッコール58mmF1.2Sという関係が見えました。もちろん、この評価へは異論があるかも知れません。もし、フィルムカメラで3本のレンズを撮り比べたらどうだろうか?、Dfでなく、光学ローパスフィルターのないカメラで撮影したらどうかなどです。ただ、今回は同一ボディで同一ポジション、同一絞りなどと、限られた条件であり、個体差、撮影技術の問題もあるでしょうから、さまざまな場面でもっと試してみればいいのですが、今回の比較画面は少なくとも同じ場面で5回以上シャッターを切って、ピント合わせしたターゲットが画素等倍まで拡大して、最もシャープな場面を判断カットとするのですが、意外とコマ毎に画質のバラツキは少なく、同じようなレベルで繰り返し撮影できるという印象が残りました。
それでも、AF-Sニッコール58mmF1.4Gは、ピントの合ったところはきりっとシャープで、ボケの描写は柔らかいという特性は十分に確認できました。作例の解説のところでも書きましたが、A3ノビ(約半切大)に拡大プリントしても、あまり解像の差は目立たないのです。これをもしA2とかさらに大きくしたらどうだろうかということですが、僕の写真生活にはそのようなチャンスはなかなかありません。とはいってもニコンDfの画素数は1625万です。最新の高画素タイプ一眼レフであるニコンD810では3635万画素、今回と同じレンズをD810で使ったらどうなるのでしょうか。興味は尽きません。 (2014.7)