ライカに始まりライカに終わる · 連載コラム(市川泰憲)
第二十一回「光学ローパスフィルターのありとなし」
1. 歴史・機構・蘊蓄(エッセイ・解説)
カメラに対し自分なりの評価をするときに決めていることは、機種を変えても、なるべくいつも同じ場所で、同じ条件で撮影し判断することです。もともと、そのようなものはあくまでも自分が見られればいいという判断で、わが家の塀越しから隣家の庭と遠景の建物を狙ってかなりいい感じで行っていました。ところが、あるとき隣の庭がつぶされ、建物が建ってしまったのです。そこで何とか、いつまでも変わらない撮影地として求めたのがおなじみ「英国大使館の正面玄関前」です。
このシーンは、今までに何度も登場しているのでご存じだと思うのですが、実はもう1カ所テストシーンとして僕が決めている場所があるのです。わが町の東京都内唯一の国宝だという東村山「正福寺の地蔵堂」なのです。この地蔵堂の建立は1407年とされていますから、たぶん600年以上変わらぬ形であると思うので、国宝であるので、これからも変わらないだろうと思って、時々カメラと三脚を自転車のカゴに載せて撮影に行くのです。
でも、実はこの場所での撮影は、画面の周辺の部分が季節で大きく変動するので、画面全体を画質評価する場面には向かないのです。ところがある日、撮影してきた画像を見てみごとなモアレの発生を見つけたのです。以後、気になるカメラがでてくると、モアレチェッカーとして「正福寺地蔵堂」を撮影してきました。この地蔵堂の屋根は「こけら葺」と呼ばれ、こけら=薄い木片を重ねて敷き詰める方法で、サワラ材を幅12cm、長さ45cm、厚さ4.5mm程度の薄い板にしたものを、少しずつずらしながら重ねて並べ、竹釘で留めてあるのだそうです。つまり、この4.5mm厚のサワラ材が規則正しく並んでいるために、ほとんどのカメラでモアレが発生して見えるわけです。
●モアレ発生の実際
最近のカメラでは、撮像素子に光学ローパスフィルターを使わないのでシャープな画像が得られる、オンチップフィルターの配列をバイヤー配列でなく独自配列を使用したからよいとか、独自な光学ローパスフィルターを採用しているからモアレが発生しにくいとか、光学ローパスフィルターを外すとシャープな画像が得られるような宣伝文句をあちらこちらに見るようになりましたが、はたしてその実態はどうなのでしょうか。【図1】には、光学ローパスフィルターが一般的にはどのように配置されているか、撮像素子そのものとの位置関係を示しました。

そうなると、どうしてモアレが発生するのか?という原理説明から入るのが本来なのかもしれませんが、これがなかなか難しく、仮に自分が理解しているつもりで解説しても、たぶん専門筋の方から違うよと、忠告をいただくことになると思いますので、ここではあえてその部分を外すことにしました。なぜならば、モアレ発生の理論というと、ナイキスト周波数、サンプリング周波数、アンチエイリアシング、低周波成分のLow-pass filterなどなどと難しい話となるのです。同じように、難しいことを抜きにして、ここではモアレと偽色を同等に扱うことにします。何よりも、ここには実際撮影した画像データがあるので、それをご覧いただくほうが適切であると思うのです。
さて、モアレは、均一なピクセルで構成された撮像素子を使ったデジタルカメラだから発生するのでしょうか? 実は、そうではありません。モアレは目で見ても確認できる場面があるのです。【写真1】にはその例を示しますが、横浜根岸の柳下邸の茶室から2枚のすだれを通して庭を眺めていたときに見つけたものです。もちろん撮影はデジタルカメラですが、同じパターンを持つ2枚のすだれのズレが干渉しあってモアレが目にしっかりと見えたのです。もちろん、すだれを1枚ずつ別にして見たら写真のような干渉縞は発生しません。ということで、フィルムカメラの時代にもモアレパターンは発生していたようです。
とはいっても、デジタルカメラでのモアレ発生は思わぬところで起きます。【写真2】横浜根岸・柳下邸をでて、ぶらぶらと歩いていて、モルタルの割れ目の防水処理の模様がおもしろいと思って撮影した1枚ですが、みごと窓の金網にモアレが発生してしまいました。わずか1時間ぐらいの間にモアレの発生を2度も確認できるとは、びっくりといったところでしょうか。



ところで、デジタルカメラとモアレ発生でもう1つ気になるの、撮影時と再生時のカメラボディの液晶でド派手なモアレを見ることがあります。とにかく目立つので最初はびっくりするのですが、実際は再生時に画像をどんどん拡大していくと消えるのです。【写真3】は、撮影時に背面液晶に発生した状態を別のカメラで再撮影したものです。この状態も、わが家の隣家を覗いた状態にいつもでくわすのですが、どのカメラが発生しやすいとかいうことではありません。ある条件がマッチすると顕著に見えてきます。その条件とは、壁のピッチとレンズの焦点距離(撮影倍率)、撮像素子と背面液晶の画素ピッチが、からんでくるようです。壁のピッチはご覧の通りで、撮影距離は約5m、レンズの焦点距離は約16mm、APS-C判、1600万画素、LCDモニターは3.0型、92万ドット。最初は、これが見えたときはびっくりしましたが、ほとんどのカメラで発生するので、今では実撮影データに影響ないことがわかり、あまり気にしませんが、この格子縞が画像データに写り込むことをテーマにしたのが今回です。
ということで、それぞれのカメラでの発生具合をお見せするのが今回の主目的です。そこで、ピックアップしたカメラのモアレに関係するであろう仕様を表にしたのが【図2】です。発売された順に掲載していますが、実はこのモアレに関するチェックは、2003年に発売されたニコンFマウントのフルサイズ機コダックDCS Pro 14nや2006年12月に発売されたAPS-HサイズのライカM8で正福寺地蔵堂を撮ったあたりでなんとなくモアレが多いなと気づいていました。この2機種、さらにはその後のライカM9は光学ローパスフィルターを省略したコダック製のCCDだったのです。それが2012年になるとフルサイズで3630万画素という高画素タイプのニコンのD800とD800Eが光学ローパスフィルターあり・なしボディを用意したのです。実際の写真の写りとしてはどのように効いてくるのだろうかという素朴な疑問からスタートしました。

光学ローパスフィルターレスをもう少し歴史的にさかのぼると、コンパクト機では、2003年のコニカ Revio KD-500、KD-Z510Z、2007年のリコーGX100が知られていました。このほか2002年にシグマから発売されたFoveonX3イメージセンサー搭載の一眼レフSD9も光学ローパスフィルターレス機でした。また2011年発売のペンタックスQとリコーGXR用A12マウントどちらも光学ローパスフィルターレス機でしたが、どちらも発売時には光学ローパスフィルターレスであること、高解像感は特にうたってはいませんでした。光学ローパスフィルターレスは2003年のコニカレビオの時代には、安価なレンズでも高性能が出せるとされていましたが、現在では高画素化にともなって一眼レフでも高解像(鮮鋭)感などがうたわれるようになったのです。
以下に、特定のボディとレンズ、さらにはレンズ交換できないカメラのモアレ発生具合を見てみましょう。
■ニコンD70+AF-Sニッコール24~70mmF2.8G ED
ニコンD70【写真4】の発売は2004年ですから10年も前ということになります。APS-C判600万画素CCDを搭載して、ボディのみで15万円、AF-S DX ズームニッコールED18~70mmF3.5-4.5G(IF)付で206,000円と、アマチュアでも手が届く価格であったことからヒット商品となりました。2004年の頃からモアレチェックの撮影をしていたかというと違うのです。実は、モアレが最新カメラでどのように発生するだろうかと“とよけん” さんこと、豊田堅二さんと話していた時に、お互いの機材を持ち寄って、モアレが発生した写真を撮影しようとなったのです。豊田さんは、担当されている日本大学芸術学部写真学科での授業の教材として、僕はやがてまとめるこの記事のためということで、共同作業となりました。D70を用意されたのは豊田さんご自身で、初期の段階で画素数が少なければモアレが発生しやすいのではという予測からでした。ただし、撮影レンズは少しでも新しいものを使おうということになり、今回は2007年11月発売のAF-Sニッコール24~70mmF2.8G EDを使いました。
撮影結果は、【作例1】をご覧ください。みごとに屋根の上のほうにモアレが発生しています。撮像素子であるCCDがAPS-C(DX)であることから、画素ピッチは7.87μmで、フルサイズのニコンD700(8.45μm)やニコンDf(7.30μm)と大きく変わる部分ではないだろうと考えるわけです。


■ニコンD700+AF-Sニッコール24~70mmF2.8G ED
2007年に発売されたフルサイズのニコンD3と同じ1,205万画素CMOSセンサーを搭載した小型タイプのフルサイズ一眼レフということになります。2008年のD700発売時には、AF-S VRズームニッコールED 24-120mm F3.5-5.6G(IF)がレンズキットとして発売されていますが、ここでは撮影レンズをそろえることによってあるものが見えてくるだろうと、手元にあったAF-Sニッコール24~70mmF2.8G ED【写真5】を使って撮影しました。
撮影結果は【作例2】に示しました。モアレ発生は場所的にはD70と同じような場所にでていますが、その発生の具合はD700のほうがわずかながら軽微です。これに対しては、D70の画素ピッチ7.87μmであり、D700は8.45μmですが、撮影レンズは同じでも、イメージャーサイズがフルサイズとAPS-Cと異なること、撮影倍率が異なることなどから簡単にその違いの理由を解説することはできません。もちろん光学ローパスフィルターの進歩もあるでしょうし、画像処理技術の進歩もあるわけでして、はっきりといい切れるのは、フルサイズで光学ローパスフィルターが入っていてもモアレは発生するということです。


■ライカM9+ズマリットM35mmF2.5
ライカM9の発売は2009年です。ライカとしては初のフルサイズ機であり、フィルムカメラ時代以来の36×24mm、すなわちライカ判であるわけです。こちらもコダックのCCDで1800万画素であるために、画素ピッチは6.86μmとなります。撮影レンズはズマリット35mmF2.5【写真6】です。ズマリットは、1949年発売の50mmF1.5がよく知られていますが、ライカの交換レンズ名としては長らく休止していましたが、2007年にM型用の普及タイプ交換レンズシリーズとして、35mmF2.5、50mmF2.5、75mmF2.5、90mmF2.5の4本が発売されました。普及タイプですから、ライカとしては価格が安いのを特徴としていますが、実は、このシリーズレンズはすべて球面レンズで構成されているのです。ライカの最新型レンズは、そのほとんどが非球面タイプであることが多いのですが、ズマリットのF2.5シリーズはすべて球面で構成されているために、ボケ具合がきわめて自然な感じがするので、僕のお気に入りのレンズです。
撮影結果を【作例3】に示しましたが、すでにおわかりのように、光学ローパスフィルターを搭載しているニコンD70とD700がモアレを発生しているので、ライカM9は光学ローパスフィルターがないから単純にモアレが発生するとは言い切れないことです。これに関してはライカM9の6.86μmという画素ピッチも大きく関係してくるわけですが、電気的なローパス処理もあり、このあたりは他機種や別の交換レンズを使うことにより、また違った面がでてきます。


■ライカM9+トリエルマーM16-18-21mmF4 ASPH.
トリエルマーM16-18-21mmF4【写真7】が発売されたのは2007年で、その前年の2006年にデジタルのライカM8が発売されました。ライカM8の撮像板は、APS-Hで、フルサイズより小さく、実際の画角は35mm判のフルサイズの焦点距離に1.33倍をかけた焦点距離の画角に相当するというものでした。そのために、トリエルマーの外付けファインダーには、1.33倍をかけた焦点距離の視野枠が刻まれていました。つまり、M8でトリエルマーを使うときには、レンズの焦点距離が16mmのときにはファインダーは21mmにセットする必要があったのです。さらに18mmは24mm、21mmは28mmというわけで、外付けファインダーには、5つの視野枠がプリントされていたのです。ところが2009年に発売されたM9はライカ判フルサイズですから、ファインダー視野枠の換算ズラシはいらなくなったのです。
ということで、トリエルマーM16-18-21mmF4の21mmの焦点距離で撮影したのが【作例4】です。この撮影のときには、画角変化を見るための目的でしたので、画面全体に占める地蔵堂の大きさは他のカットとはそろっていませんが、画面をクリックしていただいておわかりのようにモアレは屋根の上部に発生しているのです。つまり同じボディ(画素数、画素ピッチ)でもレンズが異なればモアレ発生の具合は異なるのです。撮影は、他のカットと同じように三脚を立て、M9の距離計でピントを正確に合わせたのです。このレンズでモアレが発生少ない理由は、いくつか考えられます。まず、ピントが合っていなかったのでは(それはないはず)、撮影距離(倍率)が違う、レンズの性能が十分でない(解像力が低い)のではないだろうか、ということが考えられます。モアレが発生しにくい原因は、たぶん撮影倍率とレンズ性能に依存するだろうと考えられますが、このあたりが、以後のカメラとレンズの関係に密接にかかわってくる部分となります。つまり簡単にいえば、レンズの解像力が高ければモアレが発生しやすくなり、レンズの解像力が低いかピントが合ってなければ、モアレは発生しにくいということになるようです。


■ニコンD800+AF-Sニッコール24~70mmF2.8G ED
3630万画素と高画素撮像素子の一眼レフカメラであるニコンD800は“カメラグランプリ2012大賞”を、ニコンD800Eは“カメラグランプリ2013 あなたが選ぶベストカメラ賞”を受賞するなどさまざまな話題を提供したカメラです。まず、3630万という高画素がどのように画像に影響してくるだろうかということですが、A3ノビ相当(横482mm)に引伸ばした時に393dpi(ppi)の解像度を確保できるのですから、インクジェットプリンターや一部の業務用デジタルプリンターのようにかなり高解像度まで対応できるプリンターならしっかりと緻密な描写ができます。
ボディのD800【写真8】に対し、撮影レンズはAF-Sニッコール24~70mmF2.8G EDです。撮影結果【作例5】から見ますと、かなり高解像度でありながら、モアレの発生はあまり気になりません。光学ローパスフィルターを組み込んで、画素ピッチ4.87μm、3630万という高画素タイプならのものなのでしょうか。


2. 操作方法・メンテナンス・修理のポイント
■ニコンD800E+AF-Sニッコール24~70mmF2.8G ED
D800と同じ3630万画素と高画素撮像素子の一眼レフカメラです。D800が光学ローパスフィルターを組み込んでいるのに対し、D800E【写真9】では光学ローパスフィルター効果を打ち消すように、物理的に同等な光学フィルターを組み込んで、光学ローパスレス効果を作り出しています。なぜ、単純に光学ローパスフィルターを外さないかということですが、同じ撮影レンズ、同じ撮像素子を使っていても、光学ローパスフィルターが物理的にないと、D800と光学長的に同等とならないので、このような方式をとったとされています。
これはニコンだけがそうだというわけではなく、やはり光学ローパスフィルターありのリコーのペンタックスK-5に対し、なしのK-5IIでは、光学ローパスフィルターと同じ厚さの光学ガラスを入れているのです。もちろんそのフィルターも単なる素通しの光学ガラスではなく、UV/IRカットフィルターの効果を持たせた光学フィルターだというのです。
それでは、【作例6】を見てみましょう。地蔵堂の屋根を見てみますと、D800とモアレの発生は大きな違いは確認できません。むしろ気になるのは、画素等倍で見るとD800のほうがシャープな感じがして、D800Eのほうが何となく画面全体の描写が甘く感じるのです。同じ日に、同じレンズを使い、同じ絞り値で、同じ三脚で、同じポイントにピントを合わせた結果なのです。これに関しては、後日わかったことですが、このカメラは出荷時の初期設定でノイズキャンセルがONになっているそうで、シャープな画像を得ようとするときにはノイズキャンセルモードをOFFにしなくてはならないとのことでした。


■ニコンD800E+AiAFニッコール35mmF2D
最初はD800Eとの組み合わせレンズは、単焦点で小型のAiAFニッコール35mmF2D【写真10】で使おうと考えテスト撮影を開始したのですが、どうも相性が良くないようでAF-S Gタイプレンズの使用を勧められました。その原因は、カプラー方式のAFにあるというのです。そこで、引張りだしたのがナノクリスタルコーティングで、レンズ内超音波モーターのSWM式のAF-Sニッコール24~70mmF2.8G EDだったのです。以後、D800にはこのレンズを基準とし、今回のモアレチェックには、D70、D700、D800、Dfとすべてニコンボディをこのレンズで通してみました。そしてD800とD800Eに共通したことですが、高画素であるために、その特性を生かすためには、撮影時にシビアな制約がでてきます、まずレンズはAFの精度をだすために前述のようにAF-S Gタイプを使用する、高画質な画像を得るときには、三脚を使用、ミラーアップして、ライブビューでピント合わせる、ノイズキャンセルをOFFにする等などですが、詳しくは、ニコンホームページの「D800/D800Eテクニカルガイド」をご覧ください。さて、【作例7】で撮影結果を見てみましょう。ここではAiAFニッコール35mmF2Dの特性を汲んでマニュアルフォーカスで行いました。フォーカスポイントは、屋根の下部のあたりですが、モアレの発生具合からすると解像度は高いようです。ただし、他の撮影も絞りF5.6とすべて同じなのですが、屋根の上の避雷針近辺のボケ具合は、他のレンズに比べるとかなり大きいのです。これはレンズタイプか像面に依存するのかもしれませんが、その理由は僕には不明です。


■シグマDP2メリル
シグマDP2メリルのフォビオンセンサーはAPS-Cで、従来は1.7倍でしたが、メリル仕様からは1.5倍換算となりました。そこでDP2メリルは30mm F2.8レンズを搭載していますが、35mm判換算45mm相当の画角となります。このほかに、35mm判換算焦点距離28mm相当の画角となるDP2メリルは19mm F2.8を搭載、35mm判換算焦点距離75mm相当の画角となるDP3メリルは50mm F2.8レンズを搭載というわけです。僕的には、35mm判換算35mm相当画角になるのがいいのですが、ここでは最もスタンダードな画角のDP2メリル【写真11】、つまり焦点距離45mm相当を使ってみました。DP2メリルの撮像素子はAPS-Cで、4800×3200ピクセルです。この1画素からR.G.B.3色の信号を色フィルターがなくても取り出せるのがフォビオンの特徴で、実用上は×3の4600万ピクセル相当の高画素センサーとなります。
そこで実写結果【作例8】を見てみましょう。かなり高解像でモアレの発生は感じさせません。そもそも、オンチップのカラーフィルターを搭載していないため光学ローパスフィルターを不要とするので、シャープな画像を取り出せるといいだしたのは、このフォビオンセンサーあたりからだと記憶していますが、その通りの結果が出たわけです。このような画像が撮影できるのは、さまざまな要因があるようで、フォビオンセンサーだから、高解像な撮影レンズだから、レンズシャッター機であるからなどが、考えられていますが、これ以上に詳しいことを知りたい方は、僕の関連ブログのこちら(http://d.hatena.ne.jp/ilovephoto/20121210/1355147552)をご覧ください。


■ソニーサイバーショットRX1
サイバーショットRX1【写真12】の発売は2012年11月で、35mm判フルサイズでレンズ固着の高級コンパクトカメラであり、約25万円近いという価格設定を含めて話題を呼びました。基本性能としては、約2430万画素のフルサイズ撮像素子に、カール・ツァイス ゾナーT*35mmF2レンズを非交換式で装着しているのが最大の特徴です。ソニーによると、レンズとイメージセンサーを1対1で厳密に1台ずつ位置・角度を調整する一体型だからこそ、その利点を生かし最高画質を実現したというのです。実際、使ってみると画面隅まで大変シャープに結像するので、その感触は十分に実感できます。発売のタイミングからすると、RX1がレンズ交換式だったら買うのにというような声を一部に聞きましたが、それではそもそもサイバーショットRX1でなくなってしまうわけで、ソニーのレンズ交換式のフルサイズ機はα7/α7Rの発売を待たねばならなかったわけです。
サイバーショットRX1の特徴を読んでみると、『放送用ハイエンド業務用カメラなどにも搭載されている、多点分離技術を応用した光学ローパスフィルターを採用。高い解像感を保ちながら、モアレや偽色を低減します。』と書かれています。その効果のほどはどんなものでしょうか、実写の【作例9】を見ると、他機種に比べると、意外とモアレの発生量が多いのです。不思議な現象です。
その後ソニーは2013年7月に、光学ローパスフィルターレスのサイバーショットRX1Rを発売しました。その広告によると「レンズ一体型ならではの解像感に加え、多点分離光学ローパスフィルターを取り除くことにより、圧倒的な解像感を実現します。」と書かれていますが、どのような描写を示すのか、興味はすごくありますが、未だ試してはいません。ただ一度、ソニーの技術の責任者の方とお話する機会があったので、『RX1は僕の印象では、他機種に比べるとモアレ発生の頻度が高いのですが、それだけ撮影レンズが高解像力だということなのでしょうか?』と聞きましたら、一瞬間をおいて“そういうことですね”と答えていただきました。現状の技術では、高解像レンズの搭載とモアレ発生の防止は、両立しないものかも知れません。いずれにしても、フルサイズ2430万画素、画素ピッチ5.96μmという関係においての話であり、高画素3640万相当になると、また話は変わってくると思うのです。


■ライカM(Typ240)
ライカMは、ライカカメラとしてはデジタルで2機種目のフルサイズレンジファインダー機です。最初のフルサイズモデルであるライカM9は2009年の発売で1800万画素のCCDでしたが、ライカMでは2400万画素のCMOSになったことが大きな変更点です。これは、単に1800万から2400万画素に画素が増加したということだけではなく、CCDからCMOSになったことにより、ライブビュー撮影が可能になったこと、動画撮影が可能になったことなどが大きな違いです。特に、ライブビュー撮影が可能になったことにより、ボディのフランジバックが短いという特徴を生かして、マウントアダプターを介して一眼レフの交換レンズを含めた過去・現在のさまざまなレンズを取り付けて、距離計を介さなくてもピント合わせができることになりました。これにより、レンジファインダーライカでは不可能であった、マクロレンズや距離計の連動範囲を超える焦点距離135mm以上の望遠レンズも使用可能となったわけです。換言すると、ライカ初のミラーレス機の登場で、業界初のフルサイズミラーレス機の登場であったわけです。他社のフルサイズミラーレス機の登場は、2013年11月のソニーα7/α7Rの発売を待たなければならなかったわけです。そこで、ここでは純正のズマリットM35mmF2.5と距離計非連動のドイツ・シュタインハイル社のカサリット45mmF2.8を使ってみることにしました。
◎ライカM+ズマリットM35mmF2.5【写真13】
ズマリットM35mmF2.5に関しては、ライカM9の項に詳しく述べていますので、そちらのほうを参照してください。実はライカマウントの35mmレンズとしては、他にズミクロン35mmF2とフォクトレンダー・ウルトロン35mmF1.7の2本もありますが、ここでは純正で新しいほうがいいだろうということで、ズマリットM35mmF2.5を使いました。撮影結果を【作例10】に示しましたが、モアレの発生具合は、同じフルサイズで2400万画素のソニーサイバーショットRX1は光学ローパスフィルターを内蔵していますが、ライカMには光学ローパスフィルターは内蔵されてなく、これと比較するとわずかに多いようには感じますが、大きくは変わらない感じです。


◎ライカM+シュタインハイル・カサリット40mmF2.8【写真14】
シュタインハイル・カサリットは、ライカスクリューマウントと同じM39のネジ規格をもつドイツ・ブラウン社の『パクセッテ II M』カメラ(1950年代)用の交換レンズですが、元のパクセッテカメラのデザイン、シュタインハイルという響きがいいために、以前から何とかして使いたいと思っていたのです。ところが、このレンズのマウントネジ径はライカスクリューと同じであっても、フランジバックが異なるためライカには下駄(マウントアダプター)をはかせなくては使えないのです。そこで、厚み15.5mmの専用のマウントアダプターを製作してやっと使えたというわけです。もっともこのレンズ、名称の響きのよさを別にすると、最前部の玉が妙に丸く出っ張っているのです。トリプレットかテッサータイプかとも思うのですが、文献をあさってレンズ構成調べるより、現物で実写したほうが楽しいのです。ただこのシュタインハイルレンズ、以前ノンライツRF友の会の大澤弘代表に響きがいいから好きだと伝えたら、写りは普通で面白くないですよと言われました。そこでそのカサリット45mmF2.8をライカMにつけてみたらどうなのだろうということになりました。実際さまざまな撮影してみると、メリハリに乏しくいまひとつパットしない。つまり解像力が低いのです。そのカサリットでモアレチャートを撮影した結果が【作例11】です。これを見ると、明かにモアレの発生が少ないのです。つまり、カメラの解像度の方が勝っているようです。これは、ニコンD800とD800Eが解像度的に勝っているために、AF-Sニッコール24~70mmF2.8G EDがどちらのボディでも似たような結果になったのと同じような現象だと思うわけです。


■ペンタックスK-3
ペンタックスは、2012年に同じカメラに光学ローパスフィルター搭載の「K-5II」と光学ローパスフィルター非搭載の「K-5IIs」を発売しています。このK-5IIの2機種は、光学ローパスフィルターを物理的に搭載・非搭載させたモデルで、ボディを変えて効果を変えているのです。ところが「K-3」のローパスレス効果は、1台のボディで撮像素子であるCMOSセンサーを微小駆動させることによって光学ローパスフィルターの効果をOn(強・弱)・Offできるのです。駆動原理は、ペンタックス独自のボディ内蔵手ぶれ補正機構「SR(Shake Reduction)手ブレ補正」の応用だと考えられます。具体的にはバイヤー配列のRGGBのユニット単位で考えるようですが、1画素の範囲を超えない範囲で、物理的に駆動させるというものです。これ以上の原理は、専門的ですので止めます。光学ローパスフィルターのあるなしは、撮影した画像のモアレや偽色の発生に関係するわけですが、実際「K-3」のローパスレス効果の写りはどうなのだろうかというのが、最も気になる部分です。まず撮影レンズは“SMCペンタックスDA35mmF2.8マクロLimited”と“SMCペンタックスFA43mmF1.9Limited”を用意しました。DAレンズはAPS-C用、FAレンズはフィルム時代のフルサイズ用レンズです。ところでK-3の撮像素子は、APS-Cで2435万画素なのですが、画素ピッチで見ると3.9μmと、ここでの対象機種のなかでは最も小さいのです。これでは、このK-3ボディそのものでは、もともとモアレは発生しにくいのではないだろうかと考え、解像力が最も高いであろうマクロレンズを用意したのです。
◎ペンタックスK-3+SMCペンタックスDA35mmF2.8マクロLimited【写真15】
撮影はそれぞれ、ローパスセレクター:Off、効果の弱い:Type1、効果の強い:Type2と3種類行いました。撮影結果を見ると、予想通りモアレの発生具合を確認することは難しいのですが、ローパスセレクターを[Off]、[Type1]、[Type2]と変化させていくことにより、徐々にモアレ発生が小さくなっていくことが確認できます【作例12~14】。ただ、このモアレ発生は、写してわかるもので、さらにローパスセレクターはOn/Offを含めて、度合いをどのレベルにセットすればよいかは、撮影してみなくてはわかりません。リコーイメージングでは、その後ファームウエアアップにより、ローパス効果をブラケッティング的に[Off]・[Type1]・[Type2]に変化させるローパスセレクターブラケット機能を設けました。




◎ペンタックスK-3+SMCペンタックスFA43mmF1.9Limited【写真16】
DA35mmと同じように、ローパスセレクターを[Off]、[Type1]、[Type2]と変化させて撮影しました。やはりDA35mmレンズと同じように徐々にモアレ発生が小さくなっていくことが確認できます【作例15~17】。ただ不思議なことに、DA35mmマクロよりFA43mmのほうが解像力は高く見えるのです。もともとFA43mmは、発売された1997年は、まさにフィルムカメラ全盛の時代で、適度に収差を残しつつ解像感をもたせた味のあるレンズとされ、デジタル一眼レフがでた当初はデジタルに不向きなレンズとされていましたが、結果として、時間が経った今回の使用ではデジタル向けの、しかもマクロレンズよりも限られた場面では、高い解像を示す結果となったのは大変興味深いことです。




■ソニーα7R+ゾナーT* FE35mmF2.8ZA
ソニーが発売したフルサイズミラーレス機は、2400万画素のα7と3640万画素のα7Rと2種類あるのですが、なぜか僕の周りの人は同じフルサイズでも価格の高い高画素タイプのα7Rしか買わないのです。その理由は、いろいろでしょうが、ここでは7Rだけの結果を紹介します。α7Rは2013年11月に発売されたころはボディのみで、セットレンズ付きは発売されていませんでした。その時にEマウントのフルサイズレンズとして求めたのがゾナーT* FE35mmF2.8ZA【写真17】です。実はα7Rは光学ローパスフィルターレス機で、α7は光学ローパスフィルター搭載機なのです。なぜそうなったかは聞いていませんが、たぶん画素数の違いがそのような違いを生んだのではないだろうかと考えることはそう難しいことではありません。つまりニコンD800Eで明らかなように、3640万というような高画素機では光学ローパスフィルターはあってもなくてもモアレ発生にはあまり大きな違いはないようなのです。
実写結果は【作例18】に示しますが、モアレの発生はかなり少ないのです。同じ画素数で、光学ローパスフィルター効果を打ち消したニコンD800Eと比べると、モアレの発生具合は似たようなところにありますが、屋根全体の描写ではα7Rのほうが解像感はあります。これは単焦点レンズとズームレンズの違いによるものかと考えますが、カメラの設定からくるのか、ミラーレスと一眼レフという構造的な違いからくるのか、ピント合わせや三脚の強度不足などの問題からくるのか、簡単にはわかりません。


■ニコンDf
2013年11月に発売され話題を呼んだフルサイズの一眼レフカメラです。1623万画素のCMOS撮像素子を組み込んでおり、いままでの高画素タイプに真っ向から対抗するようなボディです。ニコンDfの特徴は、古いニッコールレンズも使用可能としたところが、受けたようです。高画素タイプは、さまざまな面でシビアであり、十分な性能を発揮させるには、なかなか使いこなしが難しいわけです。ニコンDfは、1623万画素であってもA3ノビで長辺方向約489mmに拡大しても、263dpiの解像度が確保できるわけですから、必要十分なデータ量といえるわけです。このあたり、さまざまな考えがあると思いますが、A3ノビといえば写真サイズの半切強にほぼ相当します。実際はA2相当への引伸ばしも実用的には問題ないといえるのが1623万という画素数なのです。またフルサイズで1623万画素ということは、画素ピッチも7.3μmと大型で、高い高感度特性、幅広いダイナミックレンジ、立体感ある描写、発色の素直さなど、さまざまなメリットが生まれてきます。
それでは実写結果を見てみましょう。レンズは、Dfのレンズキット品であるAF-Sニッコール50mmF1.8G(Special Edition)とAF-Sニッコール24~70mmF2.8G EDの2本で行ってみました。撮影は、単焦点の焦点距離50mmに合わせて、24~70mmも焦点距離50mmにセットして行いました。絞りは、いつものようにF5.6に設定です。
◎ニコンDf +AF-Sニッコール50mmF1.8G(Special Edition)【写真18】
このレンズは「Df50mmF1.8G Special Editionキット」というキットレンズです。これは既存の50mm F1.8Gレンズのピント用ゴムリングを2段にし、往年のMF時代の50mmF1.8レンズのように深度表をシルバーリングにした限定品といわれていますが、性能的には同じはずです。このレンズ、この時期登場したニッコールレンズとしては安価で、写りがいいということで評判です。【作例19】の写真を見ますと、屋根の下のあたりにモアレが発生していますが、解像感あるレンズだということはわかります。


◎ニコンDf +AF-Sニッコール24~70mmF2.8G ED【写真19】
一方、今回の一連のチェックに使ってきたAF-Sニッコール24~70mmF2.8G EDではどうでしょう。【作例20】の写真を見ますとモアレの発生はとDf50mmF1.8Gに比べて少なく、屋根の下部のほうに薄っすらと認めることができますが、屋根全体の描写を見るとDf50mmF1.8Gに比べて解像的に少し甘いかなと感じますが、これは単焦点とズームレンズの違いによるものだと考えられます。



●モアレの発生と高画素タイプの関係
さて、以上でモアレチェックのために撮りためたデータの披露をすべて終えました。ここに紹介したデータは、あくまでも僕の手元にあった機材で構成したものです。スタートは、光学ローパスフィルターが、あることにより、ないことにより、というようなことをうたうカメラがでてきたことにより、どのくらい画像に違いがでるのだろうと比較してみようと考えたのが、そもそものきっかけです。
途中で、この分野でのオーソリティーである豊田堅二さん【写真20】と共同作業を行うことができ、ニコンD70、ニコンD800をチェック機種に加えることができたのは助かりました。特にD800とD800Eでは、高画素タイプにおける光学ローパスフィルターのあり、効果の打消しを、実写結果で見ることができたのは大きな収穫でした。
いずれにしても、これらの画像を比較した中から得られたことは、1)モアレ発生はカメラの解像度とレンズの解像度が絡み合って発生するものであること、2)レンズ交換式では簡単に光学ローパスフィルターがないことによりシャープな画像が得られるとは簡単にはいい切れない、3)高解像度で画素ピッチが細かくなれば、光学ローパスフィルターの組み込みは不要でOKとなる(5μmを切ったあたりか?)。ただし特例として、最初から一貫して光学ローパスフィルターを搭載しないライカM8、M9、Mの例もあるわけです。
結局、ここでの言葉で明らかなように「光学ローパスフィルター」といっているわけですが、電子回路によるローパスフィルターもあるわけですから、単純に光学ローパスフィルターを使わないからといって鮮鋭度が高い画像が得られるとは、決められるわけではないことです。
最後にここまで書いてきて気づいたことがあります。なぜかキヤノンのボディというかカメラが対象にないのです。これは、単純にキヤノンの宣伝文句に、光学ローパスフィルターレス、鮮鋭度が高い画像が得られるとかをあまり見受けないからです。これはどうしてだろうということで、専門家に聞いてみると、意外な答えが返ってきました。動画を得ようとするときに、光学ローパスフィルターレスだとモアレが発生しやすいので、あえて光学ローパスフィルターを入れているのだというのです。動画だとなぜモアレが発生しやすいのか?ということは別にして、昨今のEOS70DやEOSKissX7iなどのカメラ作りを見ると、明らかに動画を意識したカメラ開発で、単なるスチルカメラというより、映像機器というなかでカメラを作っていこうという姿勢を感じるのです。
そういえば、「キヤノンはなぜ一眼レフの画素数を普及機のEOSKissX7iからプロ用機のEOS-1D Xまで、画素数1800万画素にして、多くても2200万画素なのか」と技術の責任者の方にお伺いしたときに、自社の撮像板そのものは技術的に5000万画素、さらにはもっと高画素もできているけれど、バランスの良い適切な画素数というのがいまの形だという答えをもらったのです。確かに先日、とある写真展でメートル幅に伸ばした写真が大変シャープで微細であったためにある社の高画素カメラですかと聞いたところ2100万画素のEOS 5D MarkIIだというのです。そして、複数の人が同じように聞いてきたというのです。

先日この原稿をまとめている夜中にある方から、以下のメールをいただきました。「Nikon D4sのイメージセンサーの画素数が16Mだと知り驚きました。16Mのイメージセンサーで、プロ用途に十分耐える画質が得られると言うことなのでしょうか?もしそうなら、それ以外のNikonのデジタル一眼レフカメラの画素数が24~36Mというのは何を意味するのでしょうか?お答えを下されば、小生のモヤモヤ感が解消すると思います。」というのです。この方は、とある企業のフィルムとデジタル技術担当の重職にあった方でした。さて、困りました。とりあえずは、僕がこの時期までまとめたブログのアドレスをお知らせして、そこから何かを読み取ってほしい、という形で返事しました。
光学ローパスフィルターから、モアレ、さらには高画素タイプのカメラまで言及することになってしまいました。僕自身は、カメラを作る側の技術屋さんではありませんから、唯一のよりどころは、写真を撮ってプリントして自分なりの評価をするということだけなのです。技術的な思い違いなどがあることは、十分に承知していますが、その部分は実写結果に免じてご勘弁をというわけです。
そして最後に、カメラの画質評価はなかなか難しいものです。少なくとも、最終的な判断はあくまでもプリントで行うということが大切です。実際見比べてみるとわかりますが、パソコンモニター上の画質とプリント上の画質はかなり違いますし、モニター上で仮にモアレが発生していてもそれはモニターのドットとの干渉縞【写真21】であったりしますし、ましてはどんどん拡大していき、画素等倍となった時は画面全体が全く見えません。自分が必要とするプリントのサイズを決めて、それに対してどうかということで判断しないと、過剰な心配をしてしまうわけです。僕のプリント基準は、インクジェットで写真サイズ半切相当のA3ノビと決めています。 (2014.06)
