ライカに始まりライカに終わる · 連載コラム(市川泰憲)
第十五回「ライカMモノクローム」の画質をチェック
1. 歴史・機構・蘊蓄(エッセイ・解説)
■デジタルでモノクロ専用機
デジタルなのにモノクロ専用機である「Leica M Monochrom」が発売された。発表は2012年5月だった。ライカMモノクロームのボディは、ライカとか赤色ロゴマークとか一切刻印されていなく、機種名もアクセサリーシューの右側に小さく入っているだけだ。例外として背面肩にうっすらと“LEICA CAMERA MADE IN GERAMANY”と書かれているくらいで、かなりプロ好みに徹した、高級感あふれる趣味性が高いデザインだ。
この時期やっとフィールドで使う機会ができたので、一番の疑問点をテストしてレポートしてみることにした。その疑問だが、撮影データのピクセル数と画質の問題だ。M9とMモノクロームは5212×3472ピクセル(18メガピクセル)と同じ画素数だが、モノクロ写真を得るのに、M9をカラーで撮って、撮影データをグレースケール化するか、レタッチソフトでモノクロ化したのと、最初からモノクロ専用機であるMモノクロームで撮影したのを比較すると、Mモノクロームのほうが高画質であるという。確かに、ベイヤー配列されたRGBのカラーフィルターがない分だけ高画質であろうことは何となくわかるが、ではどれだけいいのだろうかということになる。
もとカメラメーカーで商品企画をやっていた学者肌のKさんは、簡単に色分解フィルターはRGBと3色だから3倍いいとか、ライカに使われている元祖コダックのCCD撮像素子の色分解フィルターはいわゆるベイヤー配列でRGGBの4マトリックスだから4倍いいとかいうが、本当にそうなのだろうか。これは数値計算で求めることができるかもしれないが、そもそもデジタルカメラの画質(解像度)は画素数で決まるとされてきたわけで、最近では高画質カメラとしてニコンD800とD800Eのような36.3メガピクセルと超高画素タイプのカメラが登場しているわけだ。M9もMモノクロームも18メガピクセルと撮影後の画素数は変わらないのだから、画質の根拠をどこに置いて、そのような数値が出てくるのだろうかということになる。そこで実写派の僕は、これを目に見える形に表したいと考えたわけだ。


■色分解フィルターなしはどのくらいいいのか
しかし、その前に自分なりの経験に基づいた計算を試みよう(^-^)。まず、3倍とか4倍とかいうのは単純にフィルターで色分解されるからということだろうが、画素数というか画質は単に数でなく、面積で効いてくるということだ。したがって3倍と見るなら、画質は3の平方根、つまり√3で約1.7倍ぐらい。同じように4倍と見るならその平方根である約2倍よくなると見たほうが現実的な値だ。僕は、3の平方根分よくなると思うのだが、実際はさらに控えめの約1.6倍ぐらいよくなるというのが妥当な数値だと思っている。
この計算概念は、たとえばFOVEONの画質にもあてはまる。FOVEONでは基本画素数に対して3層分だからと単純に3倍するが、元の画素数に対して画質的には3の平方根、つまり約1.7倍ぐらいよくなるという考えだ。
もともと僕は、写真の画質を単純に計算式で出せるとは思っていない。なぜならば、撮影のときには撮影レンズの能力も絡んでくるだろうし、写真として見るときにはプリンターの能力にも関係してくる。さらには、ブレていないことやテスターのピント合わせ能力なども大きく関係してくるが、実際に写した結果で見るのがより現実的だと思う。
ということで実写テストの結果を紹介しよう。撮影場所は、ご近所の英国大使館正面ゲートだ。晴天の日を狙って撮影したが、機材としては、MモノクロームとM9を用意した。撮影レンズは残念ながらMモノクロームと同時に発表された「Apoズミクロン50mmF2」は用意できなかったので、手元にあったズマリットM35mmF2.5とズミクロン35mmF2を用意した。今回の趣旨はレンズの能力を計るわけではないので、同じレンズでボディを変えて使った方がデータの不確定要素を少なくできるため、レンズは1種類だけのほうがいいが、画質にレンズ性能がどのくらい効いてくるかも知りたかったので、古典的なズミクロン35mmF2も加えた。
まずはMモノクローム、M9と同じレンズを使い、さらにその他の撮影時のデータは、極力そろえるようにした。撮影時の絞りはF5.6に設定、ピント合わせは距離計の合致部分で行ったが、焦点部分は画面中央の屋根のひさしの下の紋章部分だ。このようにしておけばカメラが多少斜めでも大きくポジションは撮影画面から外れない(今回は撮影時に旗を持ったおじさんにずーっとわきから話しかけられフレーミングに集中できずに画面が少し斜めなのが残念)。カメラボディは三脚を使い固定。基本的には2台のカメラ位置が変わらないようにと、さらにはブレの要素をなくそうとしたからである。加えて、カメラのISO感度は自動セット、ホワイトバランスはオート、6bitのレンズデータを反映させるモードにしてある。
2. 操作方法・メンテナンス・修理のポイント





■大伸ばしで際立つMモノクロームのよさ
それでは撮影結果を披露しよう。
【作例1】
ライカMモノクロームの画像である。等倍にすると、エンブレムの解像感、壁の質感と立体感など、明らかにMモノクロームがいいのがわかる。
【作例2】
ライカM9の、カラー画像である。
【作例3】
ライカM9のカラー画像を、Photoshopにてモノクロ化してある。しかし同じ画素数、同じレンズで、ここまで違っていいのだろうか。
【作例4】
レンズをズミクロン35mmに変えたライカM9のカラー画像。
【作例5】
レンズをズミクロン35mmに変えたライカM9のカラー画像をPhotoshopにてモノクロ化してある。このズミクロン35mmF2は1970年製であるが、やはり新しいレンズが高解像であることと、Apoズミクロン50mmF2の存在理由もよくわかった。
さていかがだろうか、わが家のインクジェットプリンターで最大限可能なA3ノビにMモノクロームとM9のズマリットで撮影したコマをモノクロでプリントしてみたが、その差はよくわからない。A3ノビというと写真サイズでは半切よりもわずかに大きいのだが、その差はわからないのだ。もっともっと大きくすればよいのだろう。この辺りは実際プリントしてみなければわからない。そこで、インクジェットプリンターでぎりぎり写真画像として見える解像度である100dpiをめどに同じプリンターでプリントしてみたら、結果はMモノクロームのほうが明らかに画質がいい差がでた。しかし今回のようにAB比較をしなければ、A2ぐらいまでではMモノクロームとM9の画質差はなかなかわからない。それ以上のA1やA0サイズ、さらには1.2m幅のロールに伸ばすようなときはその差は歴然である。ここでは、そんな大きなプリントを見てもらうことはできないので、MモノクロームとM9の画素等倍での画質差を画像をクリックして見てもらえば、その差は明確になる。同様に第2世代ズミクロンの35mmF2(1970年製)を、まったく同じ条件で撮影したが、第2世代ズミクロン35mmのオーナーにとっては、かなりつらい画面となった。
デジタルカメラの時代はカラーで撮影してモノクロ出力する技法は、僕の作品づくりでは日常である。今回は、データでモノクロを見てもらうようにしたので、M9で撮影したデータをPhotoshopにてグレースケール変換したが、ふだんはそのような手順はとらずに、カラーデータのままでインクジェットプリンターのドライバー上でモノクロプリントになるように設定している。そもそもデジタルになって、フィルムカメラの時代のように、今日は白黒かそれともカラーか、さらにはリバーサルかネガか、銘柄は、などなどとフィルムの選択は悩む部分が多かったのが、デジタルになってからそのようなことはプリントするときに悩めばいいのだと思っていた。しかし、ライカMモノクロームの登場でまた振り出しに戻ってしまった。
ところでライカMモノクロームでの撮影は、色調をセピア、寒色、暖色の3色から選ぶことができる。保存ファイルはDNGかJPEGデータで行われ、DNGデータをPhotoshopで展開してJPEG保存したら、グレースケールデータになる。なおライカMモノクロームには、RGBカラーフィルターと光学ローパスフィルターは付いていないが、UV/IRカットフィルターは付いている。
■ライカMモノクローム、バライタプリントサービス
ライカMモノクロームを購入した人には、撮影したモノクロデータを高画質のバライタペーパーにプリントするサービスを提供するという。ライカのホームページでユーザー登録後、ネットプリントサービス「Whitewall」(https://uk.whitewall.com)にユーザーごとの専用のリンクにアクセスして可能となるそうだが、日本での対応は未定。しかし、これは大変注目されるサービスだ。最近、日本ではデジタルカメラで撮影して、インクジェットフィルムに出力してネガを作り、密着でバライタ印画紙にプリントするという技法が流行っているが、Whitewallラボではデジタルデータからレーザープリンターを使って直接黒白銀塩のバライタ印画紙に仕上げるというのだから、注目される技術だ。
■モノクロ写真の魅力
ところで今回面白い発見をした。ライカMモノクロームを使ってシャッターを押し、背面液晶で撮影画面をプレビューするとすべてが作品に見えるのだ。つまり、カラーでは雑然としたなんでもない画面が、モノクロだとまるで作品のように見えるのだ。たぶん、これが“モノクロ写真の魅力”の1つだと思う。だからカラーで見れる写真は、そのままモノクロに変換してみても十分に作品として見れが、逆にモノクロ作品はカラー化しても見れないこともあるというわけだ。
そこで考えたが、カメラはカラーデータで撮影して、背面液晶とEVFはモノクロで見えるモードがあってもいいなと思った。このようなモードがあれば、撮影時にすでに気分は作家である。デジタルでは撮影時にモノクロデータでの撮影を選ぶことはできるが、カラーデータで撮影して可能性だけは残しておきたい。こんなカメラが欲しいと、とあるメーカーの技術者に伝えたが、商品化の可能性は不明でである。
最後に、写真の画質は解像度に加え、レンズの良さにも大きく関係してくるのだというあたりまえのことをいまさらながら再認識した。ただ、MモノクロームとM9の関係はどちらがどれだけ画質的に優れているかでなく、撮影者が日常的にどこまで大きくするチャンスを持っているのかということが、ポイントとなることはいうまでもない。ただ今回は、プリンターの解像度要素を加味していない。やがてそのあたりも含めて写真画像のクオリティーを明らかにしたいと考える次第だ。
